地中熱を利用したコミュニティ
これからの地中熱利用の姿を描いてみます。図の番号順に説明します。
①まず、街の中央にある公園を見てください。ここには地中熱を取り出す熱交換器(パイプの中を不凍液または水が循環)が何本も埋設してあります。この公園の下から取られた熱が集められて、隣接する集合住宅に熱源水として供給され、住宅の冷暖房に活用されます。これまで、かなりの数の戸建住宅に地中熱ヒートポンプシステムが設置されていますが、このように地中熱交換器を共通インフラとして、まとまった形で利用する例はわが国にはまだありません。地中熱交換器を共有する形がとれるとスケールメリットがあり、効率的かつ経済的な利用ができるので、初期コスト低減にも寄与します。
②公園の手前にある時計台のある建物は役場です。職員のほか多くの人が訪れる場所ですので、どの役場にも広い駐車場があります。そのスペースがあれば十分な本数の地中熱交換器が埋設でき、庁舎の建物全体の冷暖房が地中熱でできます。
③また、防災用の井戸があれば、平時はその井戸水の熱を利用することで、さらに効率的なエネルギー利用が可能になります。
④役場の左手には病院があります。病院は熱需要の大きな施設です。現在、どの病院も省エネ・CO2削減に向けた努力をしていますが、地中熱利用はその解決策になります。病院のように24時間冷暖房が必要で、しかも大きな給湯需要があるところは、地中熱の利用に向いており、初期コストを短い期間に回収することができます。また、最近、放射冷暖房を導入する病院が増えてきていますが、放射冷暖房で室内に流す冷温水の温度は地中の温度に近いため、地中熱の利用によりたいへん効率的な運転ができます。
⑤病院から通りを隔てたところにコンビニがあります。ここでは、建物の下にある杭に熱交換器を付けた形で地中熱を利用しています。ある程度大きな建物では基礎杭を打つケースが多く見られますが、この杭を採熱に利用する方法は最近多く採用されるようになっており、地中熱交換器の設置コストの低減に寄与します。
⑥さらにその奥に消防署が描かれています。積雪地域であれば消防自動車が出動する路面の融雪が必要です。また消防自動車が屋内で待機しているときに、冬季であればエンジンが冷えない適温の暖房が必要となります。このような暖房には高温の熱源を導入する必要はなく、地中熱が熱源として向いています。
⑦消防署の右隣にあるのが学校です。ここではプールと体育館に注目してください。プールでは地中熱を利用すると効率的に温水が供給できます。また、体育館では床暖房に地中熱を利用すると冬の寒い時でも、足下を気にせずに運動に専念できます。
⑧学校から通りを隔てた手前側にビニールハウスがあります。最近は、地中熱の農業利用に向けた数多くの取り組みが行われています。ここで注目してほしいのが、地中熱交換器が水平型になっている点です。別に農業施設に限ったものではありませんが、ボーリングによる垂直型のものに比べて経済性があると言われています。
⑨ビニールハウスの前の通りには、融雪用のパイプが埋設されています。積雪のあるところでは、いろいろな熱源による融雪システムが稼働していますが、自然エネルギーである地中熱を使った融雪システムは、すでに数多くの実績があります。
⑩最後に一番手前にあるのが戸建住宅で、これは現在普及しているごく一般的な地中熱の利用例です。ボーリングにより地中熱交換器を埋設する工法で、安定的に地中熱を利用できるシステムです。