理事長ご挨拶
NPO法人地中熱利用促進協会 理事長 笹田 政克 |
理事長挨拶
地中熱は私達の足もとにある再生可能エネルギーです。太陽光や太陽熱とともにもっとも身近にある再生可能エネルギーですが、すぐ足もとに住宅や建物に利用できる熱エネルギーがあることに、多くの方はまだ気付かれていないように思います。井戸水を使われたことのある方ならすぐにわかることですが、地中から汲み出される地下水は、夏冷たく、冬温かく感じられます。地下水の温度は年間を通してほぼ一定ですが、四季のある日本では、夏は気温より低く、冬は気温より高くなります。地中熱の利用もこれと同じ原理です。地中熱は年間を通して温度変化の小さい地中のエネルギーですので、地上との温度差がエネルギーとして利用できるわけです。
地中熱を利用するには、地中に埋設する熱交換器やヒートポンプなどを用います。これらの機器を通して地中との熱のやり取りができ、住宅や建物に熱を供給できます。私が所有する小さなオフィスビルでは2008年から地中熱ヒートポンプシステムで冷暖房を行っています。実際に地中熱を使い始めると、電気代が安くなりました。1年間で49%の省エネを実現しています。地中熱を利用した冷暖房はたいへん効率的です。冬は暖かい地中から熱を取り出しますので、暖房のスイッチをいれるとすぐに室内が暖まり快適です。また、夏は地中の冷熱が使えますので、通常のエアコンに比べて格段に電力消費量が少なくて済みます。地中熱のよさを実感するにつれ、多くの皆様に使っていただきたいという気持ちになっています。
地中熱のよさとは何か、整理してみます。地中熱は日本中どこでも利用できる再生可能エネルギーです。再生可能エネルギーは不安定だとよく言われますが、地中熱は安定的にいつでも利用できます。冷暖房、給湯、融雪、プールの加温など様々な需要に応えられる再生可能エネルギーです。地中熱の利用により、電気や化石燃料の大幅な節約が可能になります。地中熱による冷房の効率はきわめて高く、夏は電力のピークカットに大きな効果があり、改正省エネ法にある「電気の需要の平準化」に役立ちます。また、暖房では石油の代替として効率よい運転ができますので、特に寒冷地ではCO2の大幅な削減が可能です。さらに、建物からの排熱を大気中に放出しないので、大都市圏でのヒートアイランド現象の緩和に役立ちます。一方、地中熱でできないこともあります。それは発電です。残念ながら、火山の近くにある地熱エネルギーのように高温ではないため、発電はできません。
優れた特性をもつ地中熱ですので、設置件数は毎年着実に伸びてきています。しかし、諸外国と比較したとき、日本での普及は大きな遅れをとっています。その理由としてまず挙げられるのは、地中熱の認知度が低いことです。この背景には、わが国には長い間地中熱を普及させる政策がなかったことがあります。欧米をはじめ地中熱の利用が進んでいる諸外国では政府が支援策を講じています。わが国ではようやく2010年にエネルギー基本計画に盛り込まれ、2011年から経済産業省の補助金が支給されることになりました。その後2013年には環境省からの補助金も加わりました。また、2016年からは省エネ基準で地中熱ヒートポンプの評価ができるようになり、その適用範囲が広がってきています。
NPO法人地中熱利用促進協会は、地中熱利用の普及を目的に活動しています。多くの皆様に、省エネ性と環境性に優れた地中熱利用を知っていただくため、展示会への出展、シンポジウム、地域交流会の開催、講師の派遣等の活動を行っています。また、地中熱利用技術について、標準化、体系化に取り組み、地中熱講座(基礎講座・設計講座・施工管理講座・空調設備講座)での研修等により、技術レベルの維持向上を図っていくとともに、2014年にはシステムの品質確保のため地中熱施工管理技術者資格制度を創設いたしました。このような活動を通して、地中熱を身近に感じていただけるようなものにしていきたいと考えております。
これからも皆様のご理解とご支援をよろしくお願いいたします。
2017年10月1日
理事長 笹田政克