地中熱利用促進協会

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Geo-Heat Promotion Association of Japan

協会からの提言

地中熱普及拡大 中長期ロードマップ 改定版 2024

地中熱利用促進協会では、地中熱普及拡大に向けた中長期ロードマップを改定いたしました。

2024年6月
特定非営利活動法人地中熱利用促進協会
理事長 笹田政克
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1.はじめに

 地中熱は地表近くにある再生可能エネルギーで、国内のどこででも利用できる。市街地に限ってみても膨大な量の導入ポテンシャルがあるが、まだそのほとんどが未利用のままである。欧米諸国では1970年代の石油危機以降に石油代替エネルギーとして地中熱の利用が始まったが、日本ではエネルギー政策に地中熱が取り上げられたのは、2010年のエネルギー基本計画(第3次)が初めてである。その後はエネルギー政策、環境政策、住宅・建築物の政策に次々に取り上げられ、導入支援の補助金に後押しされて地中熱ヒートポンプの設置件数は毎年着実に伸びてきた。地中熱利用の普及活動を進めてきている地中熱利用促進協会では、地中熱ヒートポンプの普及拡大を中長期的な視点から検討し、2017年にロードマップを公表した。その後わが国では2050年カーボンニュートラルの目標が出されたので、それに合わせて今回ロードマップの改定を行った。

2.改定の経緯

 2017年に公表した中長期ロードマップでは、「2030 年代の地中熱のあるべき姿」を示している。このロードマップでは、国が2015年の長期エネルギー需給見通しで検討した再生可能エネルギーの熱利用についての 1341 万 kL(原油換算)の10%にあたる134万kL(原油換算)を地中熱で賄うことを2030年代に実現すべき目標にした。

 気候変動の国際的枠組みとして2015年にパリ協定が締結されたが、わが国でも2020年に脱炭素宣言がなされ、2030年までの温室効果ガス削減目標と、2050年までにカーボンニュートラルな社会を実現することが国際公約となった。当協会はこの状況に変化に対応して、2017年に作成したロードマップの見直しを行い、新たな地中熱の普及戦略を議論し、ロードマップ(改定版)を作成した。改定するにあたり、2017年にロードマップに掲げた「2030年代の地中熱のあるべき姿」はチャレンジングな高い目標であったので、目標となる数字134万kL(51PJ)は変更せず、実現すべき時期を2030年代ではなく2050年とし、目標到達に至る道筋と目標実現に向けて対応すべき課題を整理した。 

3.ロードマップ(改定版)の概要

 地中熱ヒートポンプは冷暖房、給湯、融雪のほかプールや温泉の加温、施設園芸、工場での冷温水など多方面で利用されている。地中熱ヒートポンプは、従来型の設備に比べて省エネ性が高く、CO2排出量の削減効果が大きいことから、カーボンニュートラルな社会実現に向けて将来性の高い再生可能エネルギーである。このロードマップ(改定版)では、このような地中熱利用の優れた特性を生かして普及を進めることができるように、2050年に向けての活動の道筋を描いている。

 今回の改定版は、大きく3つの部分から構成されている。1つ目が2017年に公表したロードマップの俯瞰的な図の範囲を2050年まで広げ、主要な課題を政策と協会活動との関連で描いたものである。2つ目は2050年に至る道筋について、ベース、ベスト、ドリームの3つのシナリオで説明したものであり、これは日本地熱学会で作成したシナリオと整合性をとってある。そして3つ目が地中熱利用の利用拡大に向けて対応すべき普及課題と、それに対する協会の取組についてであり、当協会の部会活動と対応している。

4.ロードマップ(改定版)

 「地中熱の普及拡大中長期ロードマップ改定版」(第1図)は、2050年に向けての地中熱利用促進協会の活動の方向性について、地中熱の普及課題とそれに関連する政策と協会活動を示したもので、ここではこれを略してロードマップ(改定版)と呼ぶ。このロードマップ(改定版)の様式は、2017年のロードマップの様式を踏襲しており、2017年版では時間軸の目盛りが2030年代までだったものを、今回は2050年まで延長した。

 ロードマップ(改定版)では縦軸側に国と自治体の政策を、横軸側に地中熱利用促進協会と地域団体の活動を配置し、それらが関連しながら普及課題への対応できるように、中央に地中熱ヒートポンプの普及拡大の流れを表現した。それぞれについてキーワードを用いて表現してある。2050年の目標を記載してある(第1図)。

  前述したように、このロードマップ(改定版)では2050年の地中熱の導入目標として、その後地球温暖化対策計画の別表に記載されることになった再生可能エネルギー熱利用の導入見込み量1341万kL(原油換算)に基づき、その10%に相当する134万kLを掲げている。これにより年間90万tのCO2の削減が可能となる。これを実現するために必要な地中熱ヒートポンプの設備容量(累積)はおよそ1000万kWとなり、設置件数に換算すると10万件(累積)になる。地中熱のポテンシャルは全国に1321~5050PJ(3447万~1億3175万kL)あるといわれているので(環境省REPOS)、導入目標としている134万kLを十分賄えるポテンシャルを有している。また、設備容量の1000万kWという数字も、2020年時点で先行する中国が2645万 kW、米国が2071万kWの設備容量を有していると報告されていることから、取組方次第で実現可能なものということができる。

 第1図には地中熱に関係する主要な政策と課題を記載してある。2030年に向け当面の地中熱利用設備の普及拡大として取り組むべき政策としては、脱炭素先行地域と、ZEB/ZEHの2つが挙げられる。脱炭素先行地域は地域脱炭素政策の中核にある政策で、2030年までに全国に100を超える先行地域を作り、30年以降はそれらをモデルにしてドミノ倒し的に全国に脱炭素地域を広げていくことが狙いとなっている。地中熱は2023年度までに6地域で採用されている。今後はさらに採用地域を増やすとともに、先行地域の地中熱利用をモデルとして全国に広げていく必要がある。また、ZEB/ZEHについては、国の業務・家庭部門での省エネ政策の柱であり、脱炭素先行地域同様に毎年大きな予算が組まれている。地中熱はZEBへの導入はかなり進んできており、とくに省エネ率の高い『ZEB』、Nearly ZEBへの導入比率が高いことが特徴である。地中熱利用の省エネ効果が大きなことがZEBへの導入を後押ししているが、一方、ZEBの件数が増える中でより経済性が重視さるようになってきており、地中熱はコスト面での対応を迫られている。ZEHについては、住宅の断熱性と気密性が著しく向上したことにより、小規模な住宅が多い日本の場合は、戸建て住宅での地中熱の出番が限られてきており、戸建てへの導入件数の減少が続いている。一方、総体としてのエネルギー需要の大きい集合住宅のZEH(ZEH-M)では、先進的な建物で共用部分での地中熱利用が始まっており、今後住居部分も含め地中熱の利用拡大の可能性が大きい。

 ロードマップ(改定版)では、2030年以降は前述の2つの政策の延長としての地中熱利用の拡大のほか、地中熱利用の大規模化を想定している。そのうちの一つが地中熱の面的利用で、これは2024年度から28年度までの5年間実施されるNEDOの技術開発プロジェクトの成果の社会実装に対応したものとなっている。具体的には地域熱供給での地中熱利用を想定しており、欧州ですでに稼働している第5世代の地域熱供給が2030年代の日本でも現実のものとなっている可能性がある。また、住宅との関係では欧米や中国に見られるような集合住宅への地中熱の導入が進むものと考えている。2030年以降の地中熱利用では利用分野の拡大も想定している。これまでの地中熱利用は住宅・建築物が主な導入対象であったが、2024年時点では農業分野での利用が拡大しているほか、新規分野として養殖漁業、畜産業のほか、醸造業・発酵業を含む食品工業での地中熱利用拡大の可能性がある。これらについてはまだ調査段階であるが、30年に向けてパイロット施設を作り、30年代以降は本格的に普及拡大に取組む。

 これらのほか、地中熱利用の市場創出が期待できる政策として、地下水規制緩和と再エネ熱の導入義務化がある。地下水揚水規制は国のビル用水法、工業用水法と自治体の条例によるもので、地盤沈下と地下水障害の防止を目的にしている。これらの法律および条令により地中熱利用のうちオープンループが大きな制約を受けている。特にビル用水法がある東京圏及び大阪圏においては、新規に井戸を創設するオープンループは実質的にできない状況にあるが、大阪市は2018年から国家戦略特区を用いて、汲み上げた地下水を熱利用した後全量を同じ帯水層に戻す帯水層蓄熱という地中熱利用を限定的ではあるが実施可能な状況にし、現在その拡大に向けた取組を進めている。地盤沈下と地下水障害を起こさない帯水層蓄熱の技術が、用水2法の規制緩和で導入可能な状況になれば、オランダのようにオープンループの地中熱利用が飛躍的に拡大するものを予想される。

 再エネ熱導入義務化の政策は、地下水規制緩和同様に地中熱利用の市場創出に大きなインパクトがある。ドイツで実施された再エネ熱法、韓国の公共施設における再エネの導入義務化は、ともに地中熱利用がその対象に含まれていたため、地中熱の利用拡大に大きな役割を果たした。わが国の場合は、2021に閣議決定された地球温暖化対策の政府実行計画において「地中熱、バイオマス熱、太陽熱等の再生可能エネルギー熱を使用する冷暖房 設備や給湯設備等を可能な限り幅広く導入する」と書かれており、国が先行した形になっているが、自治体においても同様の取組を進めていただきたい。さらにこれらの実績を積み上げていく中で、民間の建築物・住宅においても再エネ熱が可能な限り導入できる仕組みができると、地中熱利用が大きく進む。

 市場創出に関しては、上記2つ政策のほか、エネルギー全体の動向に関連して、変動型再エネ余剰電力の蓄エネの方法として、帯水層蓄熱(ATES)とボアホール蓄熱(BTES)が、今後注目される技術となる可能性が大きい。これらについて、2020年代は技術開発により基礎を固める段階にあり、経済性が確保できれば、蓄熱の大規模施設して地中熱利用が行われる可能性がある。また、今後AIの利用拡大によるサーバー冷却など大きな熱需要が将来的に創出される可能性がある。これらの課題については、ロードマップにはまだ記載していないが、現実性が出てきた段階で加筆すべき項目と考えている。

 

5.3つのシナリオ

 地中熱ヒートポンプの導入状況については、2010年以降は隔年で環境省による調査が行われているので、過去の普及状況も把握できており、導入状況の変化について分析することが可能である。今回のシナリオの作成にあたっては、環境省の調査(環境省, 2023)による地中熱ヒートポンプの設備容量の推移のデータを活用した。

 第2図に示した設備容量の推移に注目すると、クローズドループ・オープンループ・併用を合わせた全タイプの累計を示す折れ線グラフにいくつかの変化点が認められ、それらにはエネルギー・環境関係のできごとである京都議定書(1997年)、地中熱利用促進協会設立(2004年)、福島第一原発事故(2011年)、2050年脱炭素宣言(2020年)に対応しているようにみえる。ここではこれらのできごと等を考慮して、地中熱ヒートポンプの普及段階を下記に示す6時期に区分し、それぞれの時期の1年あたりの設備容量増加量(平均増加量と記載)と特徴的な事項を付記した。

 第1期は日本で地中熱ヒートポンプの導入が始まった時期で、北海道と広島県の大学と企業が先駆的な事業を始めた(平均増加量0.8MWt/年)。第2期は京都議定書が作成され国内で地球温暖化について関心がでてきた時期である(平均増加量1.8MWt/年)。第3期は特定非営利活動法人地中熱利用促進協会が設立され、地中熱の事業者が増えてきた(平均増加量5.9MWt/年)。第4期は福島第一原発の事故を契機に社会の関心が再エネに向いた時期であり、2011年には経産省で再エネ熱を対象にした補助事業が始まった(平均増加量17.2MWt/年)。第5期は再エネブームが落ち着いてきた時期である(平均増加量12.0MWt/年)。第6期は2020年の脱炭素宣言により2050年のカーボンニュートラルを目指し、再び再エネに関心が向いてきた時期である。

 地中熱ヒートポンプの設備容量の平均増加量/年は、これらの時期ごとに異なっており、第4期までは全体的に増加する傾向があるとともに再エネブームとなった第4期において最も大きな値となっている。

 2020年までの設備容量の変化に注目して、ベースシナリオ、ベストシナリオを作成する。なお、ドリームシナリオは後述するように、政策目標と関連付けて作成する。いずれも起点は2020年の設備容量212MWtとする(第3図)。この年の年間利用量は、年間の稼働時間を1300時間としたとき、992TJとなる。

  • ベースシナリオ

 最近の実績値でほぼ確実にこれだけは実現できそうな値として、直近である第5期のポスト再エネブームの時の年間設備容量増加量12.0MWt/年で普及が進むことを仮定する。このシナリオでは2030年に332 MWt、2050年に572 MWtとなる。

  • ベストシナリオ

 これまでの最も多かった2015年の値である年間設備容量増加量22.9MWt/年で普及が進むことを仮定する。このシナリオでは2030年に441 MWt、2050年に899 MWtとなる。

  • ドリームシナリオ

 国の長期エネルギー需給見通しで出されている政策目標の再エネ熱1341万kL(原油換算)の10%にあたる134万kL(51PJ)の省エネを2050年に実現することを目標とする。このシナリオでは2020年から2030年まではベストシナリオと同じ年間増加量とし、2030以降は地中熱利用促進協会が設定した年間134万kLを賄うことができる設備容量の目標値10,000MWt(後述)の達成が2050年に可能となる高い増加量を仮定する。

 ドリームシナリオで目標を達成するとき、2050年に設置される地中熱ヒートポンプの1年間の設備容量、設置件数等の予想値は、どのような伸びのパターンを想定するかによって異なるが、ここでは2030年以降2050年まで同じ増加量で推移した場合(第3図)と毎年1.2倍ずつ増えると仮定した場合の数値の中間的な値を用いて表現しており、設備容量(年間)は1000MW、設置件数(年間)は10000件となり、その時の市場規模は3000億円(30万円/kWとして)、必要な一級施工管理技術者は3000人となる。

 以上述べてきた3つのシナリオに対応する普及活動の在り方は以下のようになる。まず、①ベースシナリオの実現には、現在の普及活動の取組を途切れることなく維持していくことが求められる。②ベストシナリオとなると、それだけでは十分でなく、現在ある補助金などの導入支援にかかる既設の枠組みを最大限活用することが必要となる。また、新規事業者の参入も必要である。一方、③ドリームシナリオの実現は、事業者の努力だけではできない。市場創出が可能となる政策の転換とイノベーションがないと、このシナリオに示した大きな導入拡大は実現できない。前述したように市場創出に関係する重要な政策として再エネ熱の導入義務化と地下水の規制緩和がある。

 

6.普及課題と協会活動

 以上、2050年のカーボンニュートラルな社会の実現に向けて、地中熱利用に関する政策、普及課題、導入目標ついて書いたロードマップと、目標実現に向けての道筋を示すシナリオについて述べてきたが、地中熱利用の普及拡大を進めていくには、それぞれの課題についてさらに掘り下げたきめ細かな取組が必要である。

 たとえば、2030年に向けて実施されている脱炭素先行地域への地中熱の導入を進めるという課題を考えた時に、先行地域の主体となる自治体のうち、どれだけの自治体が地中熱を理解しているか考えてみる必要がある。地中熱の場合、国の政策に取り上げられたのが2010年であり、その後国の補助金の対象になったことにより自治体での認知度は上昇しているが、基礎自治体や民間レベルでは、まだ認知度が低い状況が続いている。従って、まずは地中熱について知っていただく広報活動が必要となるが、地中熱利用について理解していただき、脱炭素実現の手段の候補になった次の段階では、予算との関係で採用していただけるかどうかの課題に直面することが多い。地中熱利用の経済性は導入件数が少なく生産性が低い現在の段階では、認知度と並ぶ大きな課題である。さらに、地中熱システムを導入できる事業者がまだ少ない状況にあるため、普及を進めるには製品の規格化や設計・施工の質の確保などの技術的な課題への対応も必要となる。このほか、地中熱技術者の人材育成、地中熱利用全体を理解した事業者(インテグレータ)の育成も課題である。また、地中熱利用は導入する施設の立地条件にも関係しており、地中からどのくらいの採熱ができるかについて地質・水文情報の整備もさらに進めていく必要がある。地中熱は気候変動対策として導入できるが、導入することにより環境面でどのようなメリット(環境価値)があるかの情報も必要であろう。このように、脱炭素先行地域でのプロジェクトでの地中熱利用についてみただけでも、導入を進めるにあたっては、様々な課題に対応しなければならないことがわかる。

 地中熱利用促進協会では、このような地中熱利用を進めるにあたっての普及課題を、コスト、認知度、国及び地方の政策、技術開発、技術の普及、環境影響評価、環境価値の評価、分野拡大の8つの項目に整理し、それぞれの課題ごとに対応策を検討している(第1表)。これらの普及課題の多くは、民間事業者が会員となっている当協会で取組むことができるが、一方で、たとえば、技術の標準化(JIS、ISO)のように、協会会員だけではできないものや、大規模な技術開発や環境影響評価のように国の機関が対応する課題もある。

                   第1表 地中熱利用の普及課題と対応策 

    普及課題               対  応  策
1.コスト     投資回収期間(初期コスト回収期間)の短縮
耐用年数の評価とライフサイクルコストの優位性
運用実績の収集・公開
累積生産量の増加によるコストの低減(学習曲線)
2.認知度       国・地方自治体及び関連団体(全さく協、地熱学会、HPセンター、日設事連、ユーザー業界など)からの情報発信と連携事業の推進
関係業界での広報活動(展示会・雑誌・新聞等)
知名度の高い建築物への導入(IR、スマートシティ・キャンパスなど)
マスコミ・WEBの活用
再エネ熱利用促進連絡会、再エネ熱ネットワークの活動
事業者(プレイヤー・インテグレーター)の拡大
3.国及び地方の政策        エネルギー・環境政策での導入目標
補助金・融資・税制優遇等の支援策
地域脱炭素政策(先行地域、自治体の再エネ政策)
ZEB/ZEH-M(集合住宅)での導入拡大
地中熱ヒートポンプの省エネ基準(非住宅・住宅)の整備
地中熱の市場創出(再エネ熱の導入義務化)
地下水規制の緩和
4.技術開発     システムの性能向上と低コスト化
設計ツールの開発
面的利用(熱源水ネットワーク、大規模化)、インフラ化
複合的システム(蓄熱、再エネ熱・電気との複合技術)
5 技術の普及      技術の標準化(JIS、ISO)、機器認証
建築設備設計基準、公共建築工事標準仕様書
技術基準の整備(施工管理マニュアル、設計マニュアル)
技術者の育成(地中熱講座)、品質の確保(資格制度)
事業者(インテグレータ)の育成
メンテナンス、コミッショニング運用評価による改善
水文地質データの整備
ポテンシャルマップの整備
6.環境影響評価   関係ガイドラインの拡充
環境影響の定量化
7.環境価値の評価      地中熱の新たな付加価値(NEB:Non Energy Benefit)の創出
環境関係の認証制度利用の活性化
ESG市場における地中熱の価値化
8.分野の拡大      農業分野(施設園芸)
食品分野(食品加工業、醸造業、発酵業など)
新規開拓分野(畜産、養殖漁業など)

 

参考文献
環境省(2023)令和4年度地中熱利用状況調査結果, 13P
https://www.env.go.jp/content/000141999.pdf 2023/11/30アクセス

東京都知事ヒアリング 要望書を提出

東京都では予算編成に際し各種団体からヒアリングを実施しています。

当協会では2023年11月21日に、令和6年度予算編成にあたってのヒアリングを受け、要望書を提出いたしました。
また、要望書に対する回答が、2024年1月末にありました。

地中熱利用促進協会『要望書』 テキストで見る
PDFで見る
提出した要望書に対する
東京都からの回答
回答はこちら
PDFで見る

 

各種団体等からの東京都予算に対するヒアリングの実施について:
https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/syukei1/zaisei/06dantaiyobo_index.html
※「第7回」(令和5年11月21日)に、協会の要望書とヒアリングでの発言が掲載されています。

【公式】東京都財務局チャンネル:ヒアリングの様子を動画にて確認いただけます。
https://www.youtube.com/channel/UCdhUxPOEZKYd0iJ3xMtYzBw
※地中熱利用促進協会ヒアリングは、第7回(11月21日(火)13:30~15:00)の55分45以降です。

【報道発表資料】令和6年度東京都予算案の概要:
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/01/26/17.html

 

 

2023年11月21日

東京都知事 小池 百合子 様

特定非営利活動法人地中熱利用促進協会
理事長  笹田 政克

 

要  望  書

脱炭素社会の実現に向けて有効な地中熱利用システムの普及に関して東京都にご協力をいただき、ともに活動を進めることができれば、多くの課題が解決できるものと考えております。ここでは普及課題として、1.地中熱の広報の強化、2.地下水の規制緩和、3.再エネ熱の義務化、4.第5世代地域熱供給の4つについて要望をいたします。

 

1.地中熱の広報の強化

地中熱は省エネ効果とCO2削減効果などで大きなメリットがあり、東京都でも実績が増えてきているが、普及が十分に進んでいるとは言えない。その要因は認知度が低いことと初期コストが高いことにある。東京都の助成制度は導入コストの削減で大きな効果があるが、現状で見ると都内での地中熱ヒートポンプの導入実績は177件にとどまっている。認知度向上が課題であり、協会でも展示会などで様々な活動を行っているところであるが、東京都には広報活動の強化でご協力をお願いしたい。

5年くらい前になるが、設計事務所を対象にしたセミナーと子供たちを対象にした普及イベント(サイエンスショー)を都と共催、連携し、多くの参加者があった。この時セミナーに参加した建築関係者とはその後も交流が続いており一定の効果はあったものの、これらは単発ものであったため、効果は限定的なもので終わっている。

導入に関係する事業者を対象にしたセミナーは有効であるので、協会とも連携しながら、建築関係の業界団体等に働きかけを行うとともに、設計事務所に加え、ディベロッパー、エネルギーサービス事業者、環境意識の高い企業の環境担当者等を対象にしたセミナーを継続的に実施していただきたい。

一方、一般への認知度向上には別の視点からの取組が必要であり、地中熱に注目の集まるようなイベントの企画や展示会でのアピール効果の高い発信、インパクトのあるキャッチコピー(たとえば、Cool Heatなど)を用いた広報などを組合せた効果的なキャンペーンを実施し、都民の認知度向上を図っていただきたい。なお、住宅・建築物関係での地中熱の広報においては、供給サイドの事業者のみならず、需要サイドの居住者や子供の認知度を向上させることも重要で、居住者には戸建住宅の空調用熱としての輻射式冷暖房のメリットを理解すること、小中学生には避難所となっている学校等のリニューアル時の設備更新での地中熱システムの設置などが考えられる。

 

2.地下水の規制緩和

東京都では1960年代まで地下水の過剰な汲み上げによる地盤沈下があり、その対策として国が工業用水法、ビル用水法で規制を行うとともに、都は条例により揚水規制を実施している。現在東京都では厳しい環境確保条例により、新規の地下水利用は大きく制限されている。

地下水と熱交換を行う地中熱利用(オープンループ)は、地中熱交換器を用いた地中熱利用(クローズドループ)に比べ規模の大きな施設での利用に適しており、CO2削減に大きく貢献できる。オープンループは揚水規制のない地域では効果的な地球温暖化対策となるため近年普及が進んできているが、残念ながら揚水規制の厳しい東京都ではまったく導入ができない状況が続いている。

地盤沈下防止という視点からは、近年技術開発が進んできた汲み上げた地下水の全量を同じ帯水層に戻す帯水層蓄熱という手法を適用すれば、地下水を一切地上に排水しないため地盤沈下の心配なく大量の地中熱が利用できる。この手法については環境省の技術開発事業で地盤沈下を起こさないことが既に実証されており、さらに地下水観測による水位低下防止策を用いることでより確実な方法といえる。

東京都のような都市化が高度に進んだ地域では、利用できる再生可能エネルギーは限られているが、その中で地中熱には大きなポテンシャルがある。東京都のエネルギー消費量は業務・家庭部門合わせて431PJ(2018年)であるが、環境省のデータによるとクローズドループによる試算ではあるが、東京都の地中熱導入ポテンシャルは71PJある。地中熱利用でも比較的規模の大きな施設で利用できる帯水層蓄熱など新しい技術で、地下水が持続的に利用できるようになると、脱炭素社会の実現に向けて大きなCO2削減効果が期待できる。実証事業を含め地下水、地盤環境の保全と両立できる新しい技術を導入することにより地球温暖化対策に大きく貢献できるよう、地下水規制にかかる政策の転換をお願いしたい。

なお、上述した規制緩和の課題から離れるが、地下水に関連して以下の点についても検討していただきたい。地下水流速の速い場所ではクローズドループの方式でも、熱の移流を利用した効率的な熱交換ができる。最近この目的に特化した地下水移流型熱交換器も開発されている。今後は、計画地点の地質・地下水環境に最適な熱交換方式を選択することが重要である。これに関連して、東京都が公表している東京地中熱ポテンシャルマップは、「見かけの有効熱伝導率」が表示されているので、地質図と併せて見ることにより、地下水の影響が大きい場所が推定できる。東京地中熱ポテンシャルマップの中に、地下水による熱の移流と熱交換方式も含めた説明を加え、地中熱がより効率的に利用できるように検討していただきたい。

 

3.再エネ熱の義務化

東京都の業務・家庭部門でのエネルギー消費の大半が最終的に熱として使用されている現状を考えると、脱炭素社会の実現に向けた再生可能エネルギーの導入においては、発電とともに熱利用に重点を置く政策が必要である。

市場規模の小さい地中熱などの再エネ熱の普及拡大には、政策による市場の創出が大きな役割を果たす。一定規模以上の需要が創出されれば事業者の新規参入を促し、導入コストの低減につながる好循環のスパイラルにはいることが期待できる。

東京都はすでに太陽光の導入義務化の政策を新築の戸建て住宅を対象に実施しているが、地中熱などの再エネ熱についても適切な形での導入義務化を実現し、市場の創出に繋げていただきたい。導入義務化の検討にあたっては、新築の戸建住宅のみならず、建築物(公共建築物・一定規模以上の民間建築物)も対象にしていただきたい。東京都の公共建築物においては、省エネ・再エネ東京仕様の中で、それぞれの再エネについて個別に導入の仕方が記載されているが、地中熱などの再エネ熱は優先度が低い位置づけとなっている。この状況を改善し再エネ熱については施設の特性に応じて導入義務化を進めていただきたい(具体的には熱需要の大きな施設に注目して、地中熱は病院・福祉関係施設で「原則導入」に、太陽熱は「原則導入」に福祉関係施設を追加し、さらに地中熱では庁舎(中央熱源式)のベース熱源を担う熱源機として「原則導入」を検討していただきたい)。一定規模以上の民間建築物(新築・増築・改築)においても、環境確保条例により再エネ熱導入について適切な形での義務化を進めていただきたい。

 

4.第5世代地域熱供給

欧州では地中熱などの再エネ熱や建物からの排熱などを使った第5世代地域熱供給が進展している。欧州における地域熱供給世代区分では、世代が進むにつれて温熱の供給温度が低くなっており、第5世代では常温に近い熱源水ネットワークを用いる高効率のシステムとなっている。第5世代地域熱供給では地中熱(クローズドループとオープンループ)が多く利用されており、地中の蓄熱機能を活用しているのも大きな特徴の一つである。また、欧州では新設だけでなく既存の建物への熱供給システムを第5世代地域熱供給に置き換えている事例も見られる。

東京都においては地域冷暖房の分野でこれまで多くの取組がなされており、大量かつ高密度なエネルギー需要をもつ都市開発において、太陽エネルギーの活用や効率的なエネルギー供給により環境への負荷低減、CO2削減の推進をはかることを政策の基本においている。これをさらに発展させ脱炭素を実現させるには、再エネ電気とともに地中熱などの再エネ熱と排熱などの未利用熱を大量に利用することが必要である。

東京都では90区域で地域熱供給事業を始めとした熱の面的融通の事業が実施されている。地域熱供給事業のうち再エネ熱は8地区(地中熱2(クローズドループ1と地下トンネル水1)、下水熱3,太陽熱2、河川熱1)で、排熱利用は4地区で利用されている。このうち変電所の排熱を利用した地区では熱源水ネットワークが稼働している。これらの先導的な事例を踏まえ、将来においては再エネ熱と排熱を活用した第5世代地域熱供給事業の展開により、脱炭素社会の実現を目指す積極的な施策を実施していただきたい。

 

以 上

 

東京都回答書:

エネルギー基本計画(案)等にパブリックコメントを提出しました

再エネ熱利用促進連絡会((一社)ソーラーシステム振興協会、(特非)地中熱利用促進協会、(一社)日本木質バイオマスエネルギー協会)では、下記3政策に対してパブリックコメントを提出いたしました。

・エネルギー基本計画(案)
・地球温暖化対策計画(案)
・パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(案)

パブリックコメント(PDF)

 

(参考)

【経済産業省資源エネルギー庁】
第6次エネルギー基本計画(案)に対するパブリックコメント(意見募集)

【環境省】
「地球温暖化対策計画(案)」「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(案)」「日本のNDC(国が決定する貢献)(案)」「政府がその事務及び事業に関し温室効果ガスの排出の削減等のため実行すべき措置について定める計画(案)」に対する意見の募集(パブリックコメント)について(お知らせ)

 

エネルギー基本計画パブリックコメント 14件
(エネ基)パブコメ 1 受付番号620221018000002592
・該当箇所 20ページ 630~633行目、第4章第1節
・意見の概要
産業部門における脱炭素化の記述において、「水素や合成メタン」の後に「バイオマス」を追記して頂きたい。
・意見及び理由
「産業部門においては、水素還元製鉄、CO2吸収型コンクリート、CO2回収型セメント、人工光合成などの実用化により脱炭素化が進展する。一方で、高温の熱需要など電化が困難な部門では、水素や合成メタンなどを活用しながら、脱炭素化が進展する。」と記述されているが、産業部門においては、再エネ熱として2050年に向けてバイオマスによる高温エネルギーの供給が可能であることから、カーボンニュートラルな高温熱源で大きな比率を占める可能性のあるバイオマスを追記していただきたい。

 

(エネ基)パブコメ 2 受付番号620221018000002597
・該当箇所 20ページ634~635行目、第4章第1節
・意見の概要
民生部門でのカーボンニュートラルに向けて、再生可能エネルギー熱のポテンシャルには大きいものがあるので、「水素や合成メタンなどの活用」の前に「再生可能エネルギー熱」を追記して頂きたい。
・意見及び理由
再生可能エネルギー熱については、この基本計画37ページ1195~1197行目に、「地域の特性を活かした太陽熱、地中熱、雪氷熱、温泉熱、海水熱、河川熱、下水熱等の再生可能エネルギー熱をより効果的に活用していくことも重要である」の記述がある。これらのうち太陽熱と地中熱に関しては、環境省のREPOSにそれぞれの導入ポテンシャルが示されており、それらを原油換算すると1,263万kL、13,023万kLになる。これらの値からCO2削減量を求めると1,263万t-CO2、9719万t-CO2となり、また、木質バイオマスのついても1,1581万kLの導入ポテンシャルがあり、3,035万t-CO2のCO2削減量が見込まれる(再生可能エネルギー熱利用普及のための政策提言)。このようにカーボンニュートラルの社会での民生部門の需給構造おいて、再生可能エネルギー熱は今後大きなウエイトを占める可能性があるので、追記をお願いしたい。また、2050年に向けての再エネ熱の導入可能性を具体的に検討するには、エネルギー統計でのそれぞれの再エネ熱の利用実績の把握が必要である。
出典:再エネ熱利用促進連絡会, 2020「再生可能エネルギー熱利用普及のための政策提言」
https://www.geohpaj.org/wp2/archives/9501

 

(エネ基)パブコメ 3 受付番号620221018000002691
・該当箇所 28ページ888行目、第3章第4節1産業部門における対応
・意見の概要
産業部門に関する記述の中で、「需要サイドにおける最適なエネルギー転換に向け、」の次に「既存技術を活用した再生可能エネルギー熱の利用」を追記していただきたい。
・意見及び理由
産業部門において、再生可能エネルギー熱は高温熱源になるバイオマスで利用可能である

 

(エネ基)パブコメ 4 受付番号620221018000002693
・該当箇所 29ページ905~908行目、第4章第4節2業務・家庭部門における対応
・意見の概要
「技術開発などを進めることが求められる。」の次に「また、再生可能エネルギー熱利用のコストにかかる課題についても、技術開発をさらに進めることが必要である。」の一文を追加していただきたい。
・意見及び理由
現在再生可能エネルギー熱利用のコストにかかる課題については、NEDOにおいて技術開発が行われているが、再エネ熱を普及拡大するにはさらに技術開発を進めることが必要である。

 

(エネ基)パブコメ 5 受付番号620221018000002694
・該当箇所 29ページ913~914行目、第4章第4節2業務・家庭部門における対応
・意見の概要
「需要サイドにおける最適なエネルギー転換の選択肢として、既存インフラ・設備を利用可能な」の後に「再生可能エネルギー熱(太陽熱、地中熱、バイオマス熱等)や」を追記していただきたい。
・意見及び理由
民生部門でのカーボンニュートラルに向けて、再生可能エネルギー熱技術は既存の技術・設備であり今すぐにでも活用可能なエネルギー源である。技術的に確立されていて且つポテンシャルも大きいエネルギーであるので、カーボンニュートラルに向けては不可欠であり且つ選択の優先度は高いと考えられる。

 

(エネ基)パブコメ 6 受付番号620221018000002697
・該当箇所 37ページ1195~1197行目、第5章第1節5熱
・意見の概要
「再生可能エネルギー熱」の中に「バイオマス熱」を加えて頂きたい。文章としては、「地中熱」の次に追記をして頂きたい。
・意見及び理由
バイオマス熱は再エネ熱の重要な熱種であり、この基本計画の文書の中でも、2088~2089行目に「再生可能エネルギー熱は地域性の高い重要なエネルギー源であることから、下水 汚泥・廃材によるバイオマス熱などの利用」という記述がなされている。再エネ熱が列挙されているこの箇所にバイオマス熱の記述がないのは、エネ基全体の記述と整合性がとれない。

 

(エネ基)パブコメ 7 受付番号620221018000002698
・該当箇所 40ページ1266~1272行目、第5章第3節1徹底した省エネルギーの更なる追求
(a)産業
・意見の概要
1272行目の「工場排熱等の未利用エネルギー」の次に「と」でつないで「バイオマス」を追記していただきたい。これに伴い、1266行目のタイトルを「徹底した省エネルギー等の更なる追求」としていただきたい。
・意見及び理由
バイオマスは再エネ熱の中では比較的高温で利用でき、すでに産業部門での実績があり、今後カーボンニュートラルを実現するのに必要となる有力なエネルギーの一つである。

 

(エネ基)パブコメ 8 受付番号620221018000002700
・該当箇所 42ページ1320 ~1333行目、第5章第3節1徹底した省エネルギーの更なる追求
(b)業務・家庭
・意見の概要
1328行目「実施する」の後に「太陽光発電や太陽熱・地中熱の利用、バイオマスの活用など、地域の実情に応じた再生可能エネルギーや未利用エネルギーの利用拡大を図ることが重要である」を加えていただきたい。
・意見及び理由
「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」報告書のエネルギー転換部門に関する記述に基づき、すぐに使える技術である再生可能エネルギー熱利用に関する内容を追記して頂きたい。 「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」の13ページ「Ⅱエネルギー転換部門」の記述では、冒頭で「(再生可能エネルギー・未利用エネルギーの利用拡大に向けた住宅・建築物分野における取組) 2050 年カーボンニュートラル実現に向けては、使用するエネルギーを脱炭素化するとともに、住宅・建築物においては、太陽光発電や太陽熱・地中熱の利用、バイオマスの活用など、地域の実情に応じた再生可能エネルギーや未利用エネルギーの利用拡大を図ることが重要である」と、太陽光とともに再エネ熱について述べている。「太陽熱・地中熱・バイオマス熱」に関しては、この報告書に準じて記述するのが望ましい。

 

(エネ基)パブコメ9 受付番号620221018000002702
・該当箇所 42ページ1333行目、第5章第3節1徹底した省エネルギーの更なる追求 (b)業務・家庭
・意見の概要
42ページ1333行目の文末に、太陽光発電の導入が適さない地域では再エネ熱利用の導入を支援する文章を追記していただきたい。
・意見及び理由
(意見の詳細) 42ページ1333行目の文末に次の「」の文言を追記願いたい。 「例えば、都会地など屋根面積が小さい住宅・建築物や既築の住宅・建築物の省エネ化更には多雪・低日射地域など、これらの太陽光発電が必ずしも適さない地域・建築物にも、既存の技術で利活用が可能な再エネ熱の導入支援を講ずることによりあらゆる再エネ資源を最大限活用する」 (理由) 住宅・建築物において再エネを最大限活用するためには、太陽光発電が適さない住宅建築物において既存の技術である太陽熱利用が有効である。太陽熱利用はすでに多方面で利用されているがまだまだ活用の余地は残っている。既存技術であるが故に革新的なイノベーションやインフラを待つ必要もなく、今すぐに利用可能である。政策の優先度は高い。 東京都を例にとると都内の全建築物で屋根面積が太陽光発電に適さない20平方メートル以下のものが全体の半分を占める(東京ソーラー屋根台帳データより)。太陽熱利用を活用すればその半数の内の約8割に設置することができる(全建築物の約4割)。他の都会地でも同様の傾向があると想定される。また、太陽熱利用は既存の住宅建築物にも設置可能なケースが多い。 また多雪地域や低日射地域など必ずしも太陽光発電が適しているとは言いがたい地域でも、地中熱やバイオマス熱は既存の技術で導入が可能であり再エネを最大限活用するためにも重要な技術である。

 

(エネ基)パブコメ 10 受付番号620221018000002703
・該当箇所 50ページ1562行目 第5章第5節 タイトル
・意見の概要
(5)のタイトルについて「再生可能エネルギーの主力電源への取組」を「再生可能エネルギーの主力電源等への取組」と修正していただきたい。
・意見及び理由
本節(5)では再生可能エネルギー熱についても記述されている(63~64ページ)ので整合性がとれていない。

 

(エネ基)パブコメ 11 受付番号620221018000002706
・該当箇所 57ページ1845行目 第5章第5節 4電源別の特徴を踏まえた取組
・意見の概要
4のタイトルについて「4電源別の特徴を踏まえた取組」を「4再エネ種別の特徴を踏まえた取組」と修正していただきたい。
・意見及び理由
4のタイトルが「電源別」となっているが、この項目では再エネ熱についての記述も含まれているので、整合性がとれていない。

 

(エネ基)パブコメ 12 受付番号620221018000002708
・該当箇所 63~64ページ2087~2095行目 第5章第5節 4電源別の特徴を踏まえた取組(f)
・意見の概要
64ページ、2088~2095行目の文章で、バイオマス熱について再エネ熱と同様の記述にしていただきたい。
・意見及び理由
(意見の詳細) 64ページ、2088~2095行目の文章を以下「」のように修正していただきたい。 「再生可能エネルギー熱は地域性の高い重要なエネルギー源であることから、運輸部門における燃料となっている石油製品を一部代替することが可能なバイオ燃料の利用、下水汚泥や廃棄物処理における熱回収を含め、経済性や地域の特性に応じて進めていくことが重要である。 太陽熱、地中熱、バイオマス熱、雪氷熱、温泉熱、海水熱、河川熱、下水熱等の再生可能エネルギー熱について、・・・(以下略)」 (理由) バイオマス熱は、比較的高温にも対応できる重要な再生可能エネルギー熱であり、太陽熱などと同列に、その例示に追加することが適当である。

 

(エネ基)パブコメ 13 受付番号620221018000002709
・該当箇所 99ページ3372~3375行目、第5章第11節3効率的な熱供給の推進
・意見の概要
効率的は熱供給の推進の記述の中で、「コージェネレーションや廃熱等のエネルギー」の次に「と」でつないで「再生可能エネルギー熱」を追記していただきたい。
・意見及び理由
全国134箇所ある地域熱供給地区のうち、22地区において再エネ熱がすでに導入されており、近年新設される施設には再エネ熱が導入されるケースが多い。再エネ熱利用は、「地域の省エネルギーの実現に貢献するとともに、災害時のレジリエンス強化やエネルギーの地産地消等を後押しする」ものである。

 

(エネ基)パブコメ 14 受付番号620221018000002712
・該当箇所 104~105ページ3550~3553行目、第5章第13節
・意見の概要
「再生可能エネルギーを22~23%程度」の中には電気とともに熱が含まれているが、この度のエネルギー基本計画の審議では電気に議論が集中し、熱の見直しが行われなかった。再エネ熱の目標設定も行うべきである。
・意見及び理由
再エネの熱利用は、再エネ電気とともに国産であり、エネルギーそのものはCO2を排出しない。その利用には既存技術が適用できるので、エネルギーの安定供給と脱炭素に大きく貢献できるポテンシャルを有している。このため、電力の目標のみでなく、熱利用についても再生可能エネルギーの占める割合、及び、 その中で各再エネ熱の割合を目標化し、それを実現するための課題と対策を明らかにするべきである。今回再エネ熱その目標値は1341万klと見直しがなされていない。

 

地球温暖化対策計画パブリックコメント 9件
(温対計画)パブコメ 1 受付番号195210032000000156
・該当箇所 36ページ3行目 第3章 第2節1.(1)1エネルギー起源二酸化炭素 A.産業部門(製造事業者等)の取組(e)電化・燃料転換
・意見の概要
38ページの3行目
「また、燃料転換の例としては、」の後に「バイオマスの利用など」を追加していただきたい。

・意見及び理由
燃料転換において、再生可能な資源であるバイオマス燃料を用いたボイラーが有効であることを例示することが望ましい。

 

(温対計画)パブコメ 2 受付番号195210032000000157
・該当箇所 37ページ19行目~38ページ13行目 第3章 第2節1.(1)1エネルギー起源二酸化炭素 B.業務その他部門の取組(b)建築物の省エネルギー化
・意見の概要
38ページの13行目の文末に、住宅・建築物に再エネ熱の活用をはかることが重要であることを述べる文章を追記するとともに、37ページのタイトルを「建築物の省エネルギー化等」に変更していただきたい。
・意見及び理由
(意見の詳細)
38ページの13行目の文末に「また、2050 年カーボンニュートラル実現に向けては、使用するエネルギーを脱炭素化するとともに、住宅・建築物においては、太陽光発電や太陽熱・地中熱の利用、バイオマスの活用など、地域の実情に応じた再生可能エネルギーや未利用エネルギーの利用拡大を図ることが重要である。」の文言を追記していただきたい。それに伴い37ページの19行目、21行目のタイトルを「建築物の省エネルギー化等」に変更していだきたい。
(理由)
住宅・建築物での省エネ対策で検討されてきた「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」の報告書「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における 省エネ対策等のあり方・進め方」の13ページ「Ⅱエネルギー転換部門」の記述では、冒頭で「(再生可能エネルギー・未利用エネルギーの利用拡大に向けた住宅・建築物分野における取組) 2050 年カーボンニュートラル実現に向けては、使用するエネルギーを脱炭素化するとともに、住宅・建築物においては、太陽光発電や太陽熱・地中熱の利用、バイオマスの活用など、地域の実情に応じた再生可能エネルギーや未利用エネルギーの利用拡大を図ることが重要である」と太陽光とともに再エネ熱の重要性について指摘している。住宅・建築物の省エネ対策と整合させるためにも建築物に関して述べているこの箇所に明示的に追記して頂きたい。

 

(温対計画)パブコメ 3 受付番号195210032000000158
・該当箇所 40ページ31行目 第3章 第2節1.(1)1エネルギー起源二酸化炭素 B.業務その他部門の取組(i)エネルギーの地産地消、面的利用の促進
・意見の概要
40ページの31行目「・・の支援等を行う。」に続けて「さらに、バイオマスや太陽熱、地中熱、未利用熱などの再生可能エネルギー熱の有効活用を図る。」を追記していただきたい。
・意見及び理由
全国134箇所ある地域熱供給地区のうち、22地区において再エネ熱がすでに導入されており、近年新設される施設には再エネ熱が導入されるケースが多い。再エネ熱利用は、地域の省エネルギーの実現に貢献する技術であり今後も継続して導入を図るべきであり、再エネ熱利用促進の観点から明示的に記述すべきである。

 

(温対計画)パブコメ 4 受付番号195210032000000159
・該当箇所 43ページ17行目~44ページ14行目 第3章 第2節1.(1)1エネルギー起源二酸化炭素 C.家庭部門の取組(b)住宅の省エネルギー化
・意見の概要
44ページの11行目の文末に、住宅・建築物に再エネ熱の活用をはかることが重要であることを述べる文章を追記するとともに、43ページのタイトルを「住宅の省エネルギー化等」に変更していただきたい。
・意見及び理由
(意見の詳細)
44ページの11行目の文末に「また、2050 年カーボンニュートラル実現に向けては、使用するエネルギーを脱炭素化するとともに、住宅・建築物においては、太陽光発電や太陽熱・地中熱の利用、バイオマスの活用など、地域の実情に応じた再生可能エネルギーや未利用エネルギーの利用拡大を図ることが重要である。」の文言を追記していただきたい。それに伴い43ページの17行目、19行目のタイトルを「住宅の省エネルギー化等」に変更していだきたい。
(理由)
住宅・建築物での省エネ対策で検討されてきた「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」の報告書「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における 省エネ対策等のあり方・進め方」の13ページ「Ⅱエネルギー転換部門」の記述では、冒頭で「(再生可能エネルギー・未利用エネルギーの利用拡大に向けた住宅・建築物分野における取組) 2050 年カーボンニュートラル実現に向けては、使用するエネルギーを脱炭素化するとともに、住宅・建築物においては、太陽光発電や太陽熱・地中熱の利用、バイオマスの活用など、地域の実情に応じた再生可能エネルギーや未利用エネルギーの利用拡大を図ることが重要である」と太陽光とともに再エネ熱の重要性について指摘している。住宅・建築物の省エネ対策と整合させるためにも住宅に関して述べているこの箇所に明示的に追記して頂きたい。

 

(温対計画)パブコメ 5 受付番号195210032000000160
・該当箇所 57ページ21行目 第3章 第2節1.(1)E.エネルギー転換部門の取組 (c) 再生可能エネルギーの最大限の導入(需要家や地域における再生可能エネルギーの拡大等)
・意見の概要
57ページ21行目「「・・、PPAモデル等の周知・普及に向けた取組を行う。」の文章に後に意見内容に記した再エネ熱の導入にかかる文章を追記していただきたい。
・意見及び理由
(意見の詳細)
57ページ21行目「「・・、PPAモデル等の周知・普及に向けた取組を行う。」に続けて「また都会地など屋根面積が小さい住宅・建築物や、既築の住宅・建築物など、また多雪・低日射地域など、太陽光発電設備の設置が必ずしも適切でない場合に再エネを最大限導入するため太陽熱・地中熱など再生可能エネルギー熱の導入も図ることによりあらゆる再エネ源を最大限活用する」を追記していただきたい。
(理由)
住宅・建築物において再エネを最大限活用するためには、太陽光発電が適さない住宅建築物において既存の技術である太陽熱利用が有効である。太陽熱利用はすでに多方面で利用されているがまだまだ活用の余地は残っている。既存技術であるが故に革新的なイノベーションやインフラを待つ必要もなく、今すぐに利用可能である。政策の優先度は高い。
東京都を例にとると都内の全建築物で屋根面積が太陽光発電に適さない20平方メートル以下のものが全体の半分を占める(東京ソーラー屋根台帳データより)。太陽熱利用を活用すればその半数の内の約8割に設置することができる(全建築物の約4割)。他の都会地でも同様の傾向があると想定される。また、太陽熱利用は既存の住宅建築物にも設置可能なケースが多い。
多雪地域や低日射地域では太陽光発電が適さない住宅建築物に地中熱やバイオマス熱ななどの再生可能エネルギー熱利用を導入することが重要である。

 

(温対計画)パブコメ 6 受付番号195210032000000161
・該当箇所 58ページ、6~8行目 第2節1(1) 再生可能エネルギー熱等
・意見の概要
58ページ6~8行目について、次のとおり修文いただきたい。
「再生可能エネルギー熱(太陽熱、地中熱、バイオマス熱、雪氷熱、・・・)を中心として、下水汚泥等の熱の利用や、・・・」
・意見及び理由
バイオマスは未利用材や製材端材等は再生可能エネルギーである木材の一部であることから、その利用は下水汚泥等の並びではなく、「再生可能エネルギー熱」に位置付けることが適当である。

 

(温対計画)パブコメ 7 受付番号195210032000000162
・該当箇所 85ページ、10~16行目 第3節 国の率先的取組<再生可能エネルギーの最大限の活用・有効利用、建築物の建築・管理
・意見の概要
85ページ10~16行目の列挙において、「・地中熱、バイオマス熱、太陽熱等の再生可能エネルギー熱の活用」を追加していただきたい。
・意見及び理由
国の率先的取り組みとして、再生可能エネルギー熱の活用は、太陽光発電等と並んで重要である。「政府がその事務及び事業に関し温室効果ガスの排出の削減等のため実行すべき措置について定める計画(案)」において、「地中熱、バイオマス熱、太陽熱等の再生可能エネルギー熱を使用する冷暖房設備や給湯設備等を可能な限り幅広く導入する。」と明記されている。

 

(温対計画)パブコメ 8 受付番号195210032000000163
・該当箇所 90ページ 16~23行目 第4節2.再生可能エネルギー等の導入拡大・活用促進と省エネルギーの推進
・意見の概要
90ページ16~23行目の促進区域の設定に関する記述において、エネルギーの供給可能性のみならず、エネルギー(特に熱)の需要先の箇所を対象とすることを考慮すべきことを明示いただきたい。
・意見及び理由
熱の輸送は非効率であることから、熱の需要先に再エネ利用施設を設置することが適当である。特に、再生可能エネルギーのうちバイオマスは燃料の輸送が可能であり、バイオマスの存する箇所に再エネ施設を設置する必要はない。

 

(温対計画)パブコメ 9 受付番号195210032000000164
・該当箇所 98ページ、11~12行目 第6節(環境教育及び持続可能な開発のための教育(ESD)の推進
・意見の概要
98ページ11~12行目について、「・家庭における再生可能エネルギー発電施設の導入や脱炭素電力契約への切替え、再生可能エネルギー熱の利用」と修文いただきたい。
・意見及び理由
家庭においても、電力のみならず、太陽熱やペレットストーブ等の熱利用を進めることが有効である。

 

パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略パブリックコメント 7件

 

(長期戦略)パブコメ 1 受付番号195210034000000076
・該当箇所 14ページ14行目 第2章 第1節1.(2)
・意見の概要
14ページ14行目
「高温の熱需要など電化が困難な部門では、水素や合成メタン」に続けて「バイオマス」を加えていただきたい。

・意見及び理由
産業部門においては、再エネ熱として2050年に向けてバイオマスによる高温エネルギーの供給が可能であることから、カーボンニュートラルな高温熱源で大きな比率を占める可能性のあるバイオマスを追記していただきたい。

 

(長期戦略)パブコメ 2 受付番号195210034000000077
・該当箇所 14ページ16行目 第2章 第1節1.(2)
・意見の概要
14ページ16~17行目
「民生部門では、電化が進展するとともに、」に続けて「太陽熱や地中熱、バイオマス熱など再生可能エネルギー熱の利用や」を加えていただきたい。
・意見及び理由
再生可能エネルギー熱(太陽熱、地中熱、バイオマス熱等)は既存の技術であり、産業部門から業務、家庭部門にいたるまで幅広い需要で利用が可能な再生可能エネルギー源である。再生可能エネルギー熱は温度帯や地域性などそれぞれの特性に応じた利用が可能であり、革新的技術も不要な今すぐに利用できるエネルギー源である。電化が困難な局面においても再生可能エネルギーの最大限の活用を図るためにも明確に示していただきたい。

 

(長期戦略)パブコメ 3 受付番号195210034000000078
・該当箇所 21ページ10行目 第2章 第1節1.(3)2産業・業務・家庭・運輸部門に求められる取組
・意見の概要
21ページの10行目「熱需要や製造プロセスにおいては」に続けて「太陽熱や地中熱、バイオマス熱など再生可能エネルギー熱の利用や」を加えていただきたい。
・意見及び理由
再生可能エネルギー熱(太陽熱、地中熱、バイオマス熱等)は既存の技術であり、産業部門から業務、家庭部門にいたるまで幅広い需要で利用が可能な再生可能エネルギー源である。再生可能エネルギー熱は温度帯や地域性などそれぞれの特性に応じた利用が可能であり、革新的技術も不要な今すぐに利用できるエネルギー源である。電化が困難な局面においても再生可能エネルギーの最大限の活用を図るためにも明確に示していただきたい。

 

(長期戦略)パブコメ 4 受付番号195210034000000079
・該当箇所 28ページ31行目 第2章 第1節2.(3)2二酸化炭素排出に係るカーボンニュートラルに向けた対策
・意見の概要
28ページの31行目の行頭に「再生可能エネルギー熱の活用や」を加えて「熱エネルギーを供給するガスなどに・・」へつなげていただきたい。
・意見及び理由
再生可能エネルギー熱(太陽熱、地中熱、バイオマス熱等)は産業部門から業務、家庭部門にいたるまで幅広い需要で利用が可能な再生可能エネルギー源である。また、再生可能エネルギー熱は、化石燃料であるガスなどの脱炭素化を待つまでもなく現在の技術で利用が可能であることからも利用の優先度合いは高いと考えられる。

 

(長期戦略)パブコメ 5 受付番号195210034000000080
・該当箇所 46ページ6行目 第2章 第1節4.(2)めざすべきビジョン
・意見の概要
46ページの6行目に次の文言を入れていただきたい
「・再生可能エネルギーの導入を最大化するために消費エネルギーの削減という観点から、地域において再生可能エネルギー熱を最大限活用することを目指す。」

・意見及び理由
再エネ由来の電力消費が一般化するためにもエネルギー削減特に熱エネルギーの削減が重要である。再生可能エネルギー熱が活用される絵姿を示すことが大切である。

 

(長期戦略)パブコメ 6 受付番号195210034000000081
・該当箇所 49ページ10.行目 第2章 第1節4.(3)2カーボンニュートラルなくらしへの転換
(a)住宅・建築物での取組
・意見の概要
49ページ10.行目「なることを目指す」に続けて、太陽光発電の導入が適さない地域では再エネ熱利用の導入を支援する文章を追記していただきたい。
・意見及び理由
(意見の詳細)
49ページ10.行目「なることを目指す」に続けて「また都会地など屋根面積が小さい住宅・建築物や、既築の住宅・建築物など、また多雪・低日射地域など、太陽光発電設備の設置が必ずしも適切でない場合に再エネを最大限導入するため太陽熱・地中熱など再生可能エネルギー熱の導入も図ることによりあらゆる再エネ源を最大限活用する」追加していただきたい。
(理由)
住宅・建築物において再エネを最大限活用するためには、太陽光発電が適さない住宅建築物において既存の技術である太陽熱利用が有効である。太陽熱利用はすでに多方面で利用されているがまだまだ活用の余地は残っている。既存技術であるが故に革新的なイノベーションやインフラを待つ必要もなく、今すぐに利用可能である。政策の優先度は高い。
東京都を例にとると都内の全建築物で屋根面積が太陽光発電に適さない20平方メートル以下のものが全体の半分を占める(東京ソーラー屋根台帳データより)。太陽熱利用を活用すればその半数の内の約8割に設置することができる(全建築物の約4割)。他の都会地でも同様の傾向があると想定される。また、太陽熱利用は既存の住宅建築物にも設置可能なケースが多い。
多雪地域や低日射地域では太陽光発電が適さない住宅建築物に地中熱やバイオマス熱ななどの再生可能エネルギー熱利用を導入することが重要である。

 

(長期戦略)パブコメ 7 受付番号195210034000000082
・該当箇所 第3章 第1節1.(1)
82ページ30行目 12住宅・建築物産業・次世代電力マネジメント産業(a)住宅・建築物
・意見の概要
82ページ30行目
「再生可能エネルギーの導入」を「再生可能エネルギー(熱利用含む)の導入」としていただきたい。
・意見及び理由
再生可能エネルギーはとかく電力のみに言及されているのが実情である。現にこの箇所で後に続く文脈でも電力に関する戦略のみが示されている。法律的(エネルギー供給構造高度化法)な定義のみでなく再生可能エネルギー熱についても本箇所においても明記すべきである。

 

再生可能エネルギー熱利用の政策提言を行いました

今般、再生可能エネルギー熱利用(以下「再エネ熱」という)の下記3団体で構成する「再エネ熱利用促進連絡会」では、2050年温室効果ガスの排出実質ゼロを達成するためには、エネルギー消費の過半を占める熱需要の削減が必須ととらえ、そのためには再エネ熱の利用拡大を図ることが重要であるという共通認識のもと、今後のエネルギー計画や温暖化対策に関する政策提言をまとめました。

今後も提言の実現と具体的な政策のあり方について議論を重ね、2050年の高い目標に向けて求められる役割を果たしてまいります。

 

再エネ熱利用促進連絡会
・一般社団法人 ソーラーシステム振興協会
・特定非営利活動法人 地中熱利用促進協会
・一般社団法人 日本木質バイオマスエネルギー協会

 


(PDFファイル/725KB)

 


(PDFファイル/2.3MB)

 

地中熱利用促進協会が取り組むSDGsのゴール

 

2015年に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)は、持続可能な社会をつくるための17のゴールからなり、環境・社会・経済の諸問題が包括的に取り上げられています。一つの課題への取組が他の課題と絡み合うことから、多くのステークホルダーのパートナーシップを促進していくことが、持続可能な世界を創るための鍵となります。

地中熱利用促進協会は、内閣府の地方創生SDGs官民連携プラットフォームの会員でもあり、17のゴールの中から協会が直接・間接的に関わっている7つのゴールを抽出し、それらのゴールを実現するため、国、自治体、企業、団体、市民の皆様とともに以下の活動を進めていきますので、よろしくお願いいたします。

地中熱利用促進協会が取り組むSDGsのゴール(PDF)

 

目標:
あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する。
当協会は、地中熱を利用した冷暖房・給湯施設の普及拡大を図ることで、気候変動問題の原因となる温室効果ガスの排出を抑制し、すべての人々の健康的な生活の確保と福祉の推進に貢献します。
 【解説】
環境性に優れた地中熱利用は、人々の健康にも役立っています。コロナ禍の中で三密を防ぐために、換気が重要になっています。建物の換気で増えるエネルギーは、地中熱利用で軽減できます。地中熱利用はコロナ対策とCO2対策が同時にできる特長があり、福祉施設や健康増進施設への導入が進んでいます。

 

 

目標:
すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する。
当協会は、地中熱利用に関する技術開発を推進し、2030年までに、再生可能エネルギー熱の利用見込量である1,341万kL(原油換算)の10%に相当する、134万kLの地中熱利用拡大を目指します。
 【解説】
地中熱利用は、コスト低減を目標にした産学官連携の技術開発によって経済性が向上しています。地中熱利用システムの13件の実績データ(協会ホームページ)では、一次エネルギー削減率は20~70%と安価なランニングコストが実現できています。また、地中熱施工管理技術者の有資格者が増え、信頼できるシステムが提供できます。

 

 

目標:
強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る。
当協会は、地中熱利用の技術開発に取り組むことで、再生可能エネルギー熱の利用促進を図るとともに、産官学が連携した研究開発を通じて、持続可能な産業化の促進とイノベーションの推進に貢献します。
 【解説】
省エネ効果が大きい地中熱利用は防災拠点への導入が進んでいます。また、産学官の連携により地中熱利用の普及に向けた技術開発とともに、将来のイノベーションを見据えた基盤技術の開発を進められています。さらに、脱炭素社会での都市インフラの整備において、地域熱供給などでの地中熱の面的利用の検討が始められています。

 

 

目標:
包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する。
当協会は、地中熱を利用した地域分散型エネルギーシステムの構築に取り組むことで、災害に強い街づくりを進めるとともに、地中熱利用によるヒートアイランド抑制効果と併せて、住み続けられる街づくりに貢献します。
 【解説】
地中熱はどこでも利用できる私たちの足もとにある再生可能エネルギーで、地中熱を利用した建物が増えてきています。100%以上の省エネとなるネット・ゼロ・エネルギー・ビル(『ZEB』)の4割近くで地中熱が利用されており、地中熱を利用することで災害時にも事業継続(BCP)ができる建物もできています。

 

 

目標:
持続可能な生産消費形態を確保する。
当協会は、地中熱を利用するすべてのシステムの高効率化や長寿命化に取り組み、ライフサイクルを通じた持続可能なシステムを提供します。
 【解説】
高密度ポリエチレン製の地中熱交換器は、地震に強く耐久性があり、新しい水道管と同様に50年以上使うことができます。また、地中熱は地中との熱のやり取りを行う高効率な循環型エネルギーシステムであることから、人工排熱を出さないゼロエミッションを推進することが可能です。一方、地下水の熱利用では地盤沈下を起こさない技術が開発され、国家戦略特区において実証されています。

 

 

目標:
気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる。
当協会は、国の地球温暖化対策計画に則り、2030年までに年間100万トンのCO2を削減するため、地中熱利用の促進に取り組みます。
 【解説】
地中熱利用システムの13件の実績データ(協会ホームページ)では、 CO2 排出量削減率は20~63%です。まだ多くの施設で暖房や給湯に使われている化石燃料による設備を地中熱に置き換えると大幅なCO2排出量の削減ができます。

 

 

目標:
持続可能な開発のための実現手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する。
当協会は、地中熱の利用促進と技術開発を通じ、産官学はもとより、金融・サプライチェーンを含むすべての人・組織・企業間におけるパートナーシップを推進することで、持続可能な社会の構築に貢献します。
 【解説】
当協会では、全国地中熱フォーラム等のイベントを通して、SDGsを進めている企業、自治体、市民と連携した活動を進めています。また、協会では、再生可能エネルギーの熱利用の普及に向け、太陽熱、バイオマス熱の団体や、建築設備設計の団体とも全国規模で連携した活動を行っています。

 

 

地中熱普及拡大に向けた政策提言
―公共施設における地中熱利用―

平成30年3月
特定非営利活動法人 地中熱利用促進協会

 

1.はじめに

地中熱利用促進協会は、2004年に設立されたNPO法人で、国民の生活環境の向上に資することを目的として、地中熱利用に関する知識と技術の普及促進のための活動を行っています。
地中熱は地表近くにある再生可能エネルギーで、ヒートポンプを用いて冷暖房の熱源として利用する方法が世界的に見て最も普及が進んでおり、化石燃料を用いたボイラーや空気熱源のヒートポンプなどのシステムと比較して大きな省エネ効果があるだけでなく、CO2排出量の削減においても大きな効果が得られることが実証されています。
地中熱は10年ほど前までは、国の新エネルギー政策に入っていなかったために、太陽熱などの再生可能エネルギー熱と比べて、国や地方自治体の政策に採用いただくのに後れをとっていましたが、2010年にエネルギー基本計画(第三次)で取り上げられると、翌11年から経済産業省の再生可能エネルギー熱利用補助金の対象となり、13年からは環境省の補助金も使えるようになるなど、全国的な普及が加速しつつあります。
地中熱利用促進協会では、2016年に再生可能エネルギーと地中熱に関する自治体の政策について、公表資料を対象にした独自調査を行いました。それによると、全国47都道府県すべてにおいて、再生可能エネルギーならびに地球温暖化対策に関する政策があり、そのうち28の都道府県と7政令指定都市が地中熱利用を政策の中で取り上げていることがわかりました。一方、環境省の調査では地中熱利用設備を導入している公共施設がすでに全国で100か所以上あることが明らかになっています。公共施設に地中熱が導入されるということは、国や地方自治体に地中熱を安心して使えるエネルギーと認知していただいたこととなり、民間への大きな波及効果につながります。本提言では、現時点での自治体での政策を踏まえ、公共施設での地中熱利用の優れた点について、環境性、経済性、多様性、耐久性等の視点から紹介いたします。この提言の趣旨を生かしていただくことで、公共施設における地中熱利用設備の導入が地方創生につながる一助となることを期待しております。

 

2.エネルギー先進国における再生可能エネルギー熱利用

再生可能エネルギー利用の先進国と言われるドイツでは、2010年9月、当時のメルケル政権が、①省エネの推進、②エネルギーの高効率での利用、③再生可能エネルギーの推進を柱とした「エネルギーヴェンデ(エネルギーの大転換)」と呼ばれる新しいエネルギー戦略を決議しました。
ドイツのエネルギーヴェンデの中で最も大きなカギを握るのは「省エネ」であり、省エネのポテンシャルの最も大きな部分は、建物における「熱」の消費量削減であると考えられています。ドイツ連邦経済・エネルギー省の統計によると、2012年の社会全体の最終エネルギー消費量のうち、29%が建物の暖房、5%が温水供給、21%が産業などの工程で使われる熱であり、冷房および産業用の工程で使われる冷却用の熱2%とあわせると、社会のエネルギー消費のうち57%が熱エネルギーとして利用されており、そのうち34%が建物の給湯と暖房となります。2015年度の日本のエネルギー白書においても、家庭部門における熱需要は53%(暖房22%、給湯29%、冷房2%)、業務他部門では43%であり、省エネ対策の柱はいかに建物内での「熱」消費を少なくするかにかかっているかがわかります。このようなエネルギー消費構造の中で、私たちの足元に眠っている地中熱を給湯と暖房の熱源に利用することは、とても理にかなった利活用方法ではないでしょうか。

 

3.我が国の地中熱のポテンシャルと導入目標

我が国のエネルギー事情を展望する2030年のエネルギーミックスでは、再生可能エネルギー全体として原油換算で6700万kLの利用が見込まれています。また、パリ協定のもとで2030年までに2013年度比で26%の温室効果ガスの削減を約束しています。地中熱利用促進協会では、地中熱利用がこれらの目標にどの程度貢献できるものか、先行する世界各国の地中熱の導入状況と日本の地中熱ポテンシャルを考慮し、2030年代に実現可能な地中熱ヒートポンプの導入量を算定するとともに、それを実現するために必要なプロセスを示す中長期ロードマップを作成し、2030年代の地中熱の導入目標として、エネルギーミックスにおける再生可能エネルギー熱利用の導入見込み量1341万kLの10%に相当する134万kLを掲げました。これにより、年間100万tのCO2の削減が可能となります。
2030年代にこの目標を実現するための一里塚として、地中熱利用促進協会では、当面目指すべき2020年代の目標も設定し、普及に取組んでいます。現在、経済産業省、環境省の補助制度があるだけでなく、トータルコストの20%削減を目標としたNEDOの技術開発が実施されており、プロジェクトの最終年度となる2018年度以降、コスト低減による市場の活性化も期待されています。さらに、建築物省エネ法の施行により、省エネ基準の適合義務化が拡大していく中で、一次エネルギー消費量が算定できる地中熱ヒートポンプの評価法の整備も進められており、非住宅(2016年適用開始)から住宅へと範囲が広がって評価法が整うことは、地中熱利用の普及にとって追い風であり、大きなプラス要因となっています。

 

4.地中熱利用と地方創生

国土交通省が2011年2月に発表した「国土の長期展望」によると、日本は2004年に既に人口のピーク(1億2748万人)を迎えており、今後急激な人口減少が進み、2030年には1割以上が減少し、1億1500万人まで減ることが予測されています。
このような状況の中、地域が持続的に発展するための一つの方法として、地中熱を含めた再生可能エネルギー利用の導入拡大によって、化石燃料等のエネルギーの対価として地域外に流れているお金を、地域内でエネルギーを生産することやエネルギー消費量を削減することで、地域内に還流させる新たなビジネスモデルがこれまでに提案されてきています。
地中熱ヒートポンプシステムを導入するにあたっては、地中の掘削から、配管、ヒートポンプ機器の設置、制御などの幅広い技術が必要であり、設計事務所、建設会社、工務店、ハウスメーカー、井戸掘削会社、設備会社、ヒートポンプ製造会社等、様々な業種の参加が求められることから、その地域の企業が参入する機会が増え、地中熱の導入は地域産業の活性化に貢献します。
また、環境省の補助金「再生可能エネルギー電気・熱自立的普及促進事業」は、主に地方公共団体が対象であり、「【第1号】熱利用設備導入促進事業」における市町村への補助率は2/3と極めて高いものとなっていることから、地方公共団体においては積極的な活用を進めていただき、特に、地域のランドマークとなるような建物に地中熱を導入いただくことで、地域に生活する住民が、地産地消かつ分散型エネルギー源である地中熱の存在を身近に感じ、それに伴って省エネが促進され、設置件数が増えることでイニシャルコストも下がり、地域経済も活性化されるという正の連鎖が実現していくことを強く期待しております。

 

5.公共施設における地中熱利用

これまでも地中熱は、庁舎や学校、コミュニティ施設などを中心に、全国の公共施設への導入が進められてきましたが、地中熱の普及を拡大していくには、先行して公共施設への導入が進み、民間施設へ波及していくことが望まれます。
今後、公共施設は統廃合が進められることが予想されており、長期的な利活用が求められます。省エネ性と環境性に優れた地中熱ヒートポンプは、熱需要の大きな施設ほど初期コストの回収年数が短くなることから、公共施設の中でも病院や福祉施設といった、年間を通して熱需要の大きい施設への導入件数が増える傾向にあります。また、これから公共施設を新築・改築する際には、最新の省エネ設備や多様な再エネ設備が導入されたネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)を目指す時代が到来する中、地中熱はZEBの実現における省エネの大きな構成要素となります。また、建築確認申請時に地中熱ヒートポンプの省エネ性能評価ができるようになったことで、今後地中熱利用の導入件数が大きく伸びるものと予想しています。
地中熱利用促進協会では、雑誌・書籍等において取り上げられた公共施設への導入事例についても調査を行い、82件の施設について、導入理由とメリット、先進性・モデル性などの特徴、性能・効果、政策・補助事業の項目についてまとめ、ユーザーである自治体が、どのような導入目的や経緯で地中熱を導入し、どのようなメリットと効果を期待しているかについて分析・整理いたしました(参考文献)。

図1 導入理由とメリット
(参考文献:「公共施設への地中熱の導入事例分析」に基づく)

 

公共施設へ地中熱を導入する際にメリットとして考えられた項目を整理すると、図1のようにまとめられます。メリットとして挙げられた主要な項目は、当協会でも地中熱導入効果の大きいものと考えております。これらのうち下記の上位3項目(環境配慮、コストメリット、地産地消のエネルギー利用)について、これらのメリットを具体的に説明いたします。

・再生可能エネルギーの導入、省エネ・CO2削減などの「環境配慮」  …22件
・ランニングコスト削減、補助金を含む「コストメリット」  …20件
・地下水が豊富などの地域における地中熱有利性(「地産地消のエネルギー」)  …10件

 

「地産地消のエネルギー利用」と「環境配慮」

国のZEBの推進に伴い、地方の公共施設もますますエネルギー・環境に配慮した設備導入が求められています。また、地下水熱を含むその地域で得られる地産地消のエネルギーである地中熱を利用することは、BCPや地域産業の活性化の観点からも有意義です。地中熱利用は、消費するエネルギーの大半を地中熱で賄うことにより、CO2排出量を大幅に削減することが可能であり、騒音や排ガスなど周辺環境への負荷も少ないことがいえます。例えば、図2の温水プールの導入事例では従来方式に比較し55%、庁舎の空調利用では同じく45%のCO2排出量を削減しています。地下水が豊富な地域や地盤の熱伝導率の高い地域などでは、さらに効率的な地中熱活用が可能となり、まさに究極の地産地消のエネルギーとなります。

図2 CO2排出量の削減効果

 

「コストメリット」

導入事例分析ではランニングコスト30~40%の削減効果を上げており、青森県や北海道など寒冷地では、50%を超える事例もあります(参考文献)。図3は、地中熱とバイオマス併用システムの導入により、従来方式よりライニングコストを46%削減した庁舎空調利用の事例です。イニシャルコストは、環境省など補助金の活用により軽減することができます。
地中部分の配管は樹脂製であり耐用年数が長いこととメンテナンスも軽減されることから維持費の軽減につながり、ライフサイクルコストでも有利です。また、ESCO事業などエネルギーサービス事業や民間資金の活用により、初期投資を軽減することも可能です。

図3 ランニングコストの削減

 

これら自治体の皆様がよく認識されているメリットの他、この82件の調査では目立ちませんでしたが、公共施設への導入を検討される際に考慮していただきたい地中熱利用のメリットを3点、以下に説明させていただきます。

 

「多様かつ幅広い活用方法」

学校など教育施設、庁舎やコミュニティ施設、温浴施設、病院・福祉施設、融雪施設など多様な用途に地中熱利用ができます。システムパネルの設置など「見える化」することにより学校では環境教育に活用でき、庁舎・コミュニティ施設では住民に対して環境意識の啓発にもつながります。また、公共施設は災害時には防災拠点としての機能も求められることから、太陽光発電・蓄電池などともに省エネ設備である地中熱を導入することは、BCPの観点から有効です。例えば、図4はゼロエネルギー庁舎のコンセプトで、東日本大震災で被災し、国土交通省が現地に再建した石巻港湾合同庁舎にも、地中熱ヒートポンプシステムが導入されています。

図4 石巻港湾合同庁舎イメージ図 (提供:国土交通省東北地方整備局)

 

大規模な施設では、水蓄熱方式や従来の空気熱源方式を併用することで、イニシャルコスト・ランニングコストを低減することができます。さらに、床暖房など輻射冷暖房を採用することで、快適な環境づくりが可能となります。このような多様な用途と幅広く活用できるのも、地中熱の特徴です。

 

「長寿命化施設に活用」

少子高齢化と人口減少により、地方自治体の施設はさらに縮小と統廃合が進められると同時に、長期的に利用する指向が高まることから、これから建設する施設には、ランニングコストの削減だけでなく、設備の長寿命性が求められます。再生可能エネルギー設備の中で最も広く普及している太陽光発電の耐用年数は20年と言われていますが、地中熱利用の場合はシステムの主要部分を構成する地中熱交換器が高密度ポリエチレン製であり、耐用年数は50年以上と長期にわたる利用が可能です。このように地中熱交換器をはじめ地中埋設部分が長寿命であるため、ライフサイクルでは有利となります。
図書館やコミュニティ施設などの複合施設、集約型施設は特に長期的に使われ、多くの住民が利用されるため地中熱利用に適しています。また、既存施設の設備改修や更新需要にも対応可能です。

 

「地域産業の活性化」

地中熱ヒートポンプシステムは、地中熱交換井の掘削、配管、ヒートポンプ機器、制御など幅広い技術が必要なため、様々な業種が事業に携わることとなります。再生可能エネルギー利用設備の中では、地中熱利用設備の地域産業への依存率は小水力に次いで高く、地域産業の振興に役立ちます。よって、その地域に存在する井戸掘削会社、設備会社、地場ゼネコンや地場工務店等が参入する機会も増えることとなり、地域の活性化にもつながります。

 

6.まとめ ―地中熱利用の更なる普及促進に向けて-

地中熱は、このように公共施設への導入効果の高い再生可能エネルギーです。温室効果ガス排出を減らしながら省エネを実現し、かつ地域が持続的に成長できる政策を持たれている自治体の皆様には、是非継続的に地中熱の導入を検討していただきたいと考えております。パリ協定において世界と約束した、2030年までに2013年度比で26%の温室効果ガス削減を果たすためにも、各自治体におかれましては、具体的方策として、公共施設の新築・改築時において、再生可能な熱エネルギーである地中熱の導入を検討くださいますようお願い申し上げます。

地中熱利用促進協会では、自治体の皆様とともに、これからも地中熱の普及促進を進めてまいります。地中熱の利用の仕方などご不明な点がありましたら、協会事務局あるいはそれぞれの地域の会員にご相談ください。

 

参考文献
■キロワットアワー・イズ・マネー〔いしずえ新書〕著/村上敦(ドイツ在住環境ジャーナリスト)
■積算資料公表価格版2017年4月号 特集②地中熱利用システム (一社)経済調査会
・公共建築物における地中熱の利用について……国土交通省官庁営繕部設備・環境課課長補佐 政近圭介
・公共施設での地中熱利用……NPO法人地中熱利用促進協会 理事長 笹田政克
・公共施設への地中熱の導入事例分析……NPO法人地中熱利用促進協会 副理事長 森山和馬

地中熱普及拡大に向けた政策提言 (PDFファイル 367KB)

 

『再生可能エネルギー熱利用の促進を』
―エネルギー基本計画の見直しに向けての提言―

エネルギー基本計画の見直しに向けて、2018年2月9日、下記の意見を経済産業省資源エネルギー庁の「エネルギー政策に関する意見箱」に投書いたしました。

 

NPO法人地中熱利用促進協会
理事長 笹田政克

 

エネルギー基本計画の見直しにあたり、再生可能エネルギーの熱利用促進の視点から2つ意見を述べさせていただきます。
1)省エネと再生可能エネルギー熱利用について
2017年8月9日の基本政策分科会で坂根分科会長が省エネと熱利用について以下のご発言をされています。「まずは省エネがかなり可能性があるんじゃないかなと思っております。私どもの会社の工場で電力9割減が実現できた話は以前したかと思いますが、結局これは冷暖房への地下水利用を取り入れたうえに、さらにバイオマス発電を導入し、それだけですと2割の効率しか改善しませんから、そこからさらに熱利用すると7割まで上がるというので、小規模のバイオマス発電とその熱利用を幾つもやってきました。とにかく一番省エネが大事な話ですから、省エネをもっと進めるためにどうしたらいいのかよく検討する必要があります。」*1 この内容はMETI Journal 2018年01月31日エネルギーVol.10にも紹介されています。
ご発言の中にある「冷暖房への地下水利用」は、地中熱利用の一形態で、経済産業省の再生可能エネルギー熱利用政策の中では、地中熱利用のオープンループに区分されているものです。(株)小松製作所の工場では、再生可能エネルギーの熱利用として、地中熱とバイオマスが活用されていますが、これに太陽熱等を含めて考えると、再エネ熱利用は事業者による省エネの取組にまだ大きな可能性を残しています。かつてNEDOが「住宅・建築物高効率エネルギーシステム導入促進事業」という省エネ事業を実施した際に、3年間のエネルギー使用量の報告が義務付けられ、87施設のデータから地中熱、太陽熱等の再エネ熱利用システムが、省エネ率で上位を占めるという実証結果が報告されています。現在、再生可能エネルギーは発電にばかり目が向いており、大きな効果のある熱利用が見過ごされがちな状況にあります。この度の見直しにおいて、坂根分科会長のご意見を単に省エネということだけでなく、省エネの中でも効果が大きい再生可能エネルギー熱利用に注目し、工場はもとよりZEH、ZEB等住宅・建築物への導入をもっと促進するという視点から議論を進めていただけますようお願いいたします。

2)エネルギーミックスでの地中熱の導入量の記載について
2015年に公表された政府による2030年エネルギーミックスでは、再生可能エネルギー全体として原油換算で6700万kLの利用が見込まれています。また、パリ協定のもとでわが国では2030年までに2013年度比で26%の温室効果ガスの削減を約束しています。地中熱利用がこれらの目標にどの程度貢献できるものか、地中熱利用促進協会では先行する世界各国の地中熱の導入状況と日本の地中熱のポテンシャルを考慮し、2030年代に実現可能な地中熱ヒートポンプの導入量を算定するとともに、それを実現するために必要なプロセスを示す中長期ロードマップを作成致しました(下図)。
このロードマップでは2030年代の地中熱の導入目標として、エネルギーミックスにおける再生可能エネルギー熱利用の導入見込み量1341万kLの10%に相当する134万kLを掲げています(下図緑枠)。これにより年間100万tのCO2の削減が可能となります。これを実現するために必要な地中熱ヒートポンプの設備容量はおよそ1000万kWとなり、設置件数に換算すると16万件となります。地中熱のポテンシャルは日本エネルギー経済研究所の推計によると、全国に600万~1600万kLあるといわれていますので、導入目標としている134万kLを十分賄える量であるといえます。また、設備容量の1000万kWという数字も、2015年時点で地中熱利用分野で先行する米国が1680万kW、中国が1178万kWの設備容量を有していると報告されていることから、取組方次第で実現可能なものとなります。
この度見直しが行われるエネルギーミックスにおいては、太陽熱55万kL、バイオマス等618万kLに併記する形で、地中熱134万kLを記載していただきたく、ご検討をお願い致します。

*1: 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 (第21回会合)議事録 42ページ

 

 

 

地中熱普及拡大 中長期ロードマップ 2017

地中熱利用促進協会では、地中熱普及拡大に向けた中長期ロードマップを作成いたしました。
*中長期ロードマップは2024年度に改定いたしました。 ▶2024年度改定版はこちら

(クリックすると拡大画像が表示されます)

 地中熱は地表近くにある再生可能エネルギーで、日本国中どこでも利用できる。市街地に限ってみても膨大な量の導入ポテンシャルがあるが、まだそのほとんどが未利用のままである。欧米諸国では1970年代の石油危機以降に石油代替エネルギーとして地中熱の利用が始まったが、日本ではエネルギー政策に地中熱が取り上げられたのは、2010年のエネルギー基本計画が初めてである。しかし、その後はエネルギー政策、環境政策、住宅・建築物の政策に次々に取り上げられ、導入支援の補助金に後押しされて地中熱ヒートポンプの設置件数は毎年着実に伸びている。

地中熱ヒートポンプは冷暖房、給湯、融雪のほかプールや温泉の加温、施設園芸、工場での冷温水など多方面で利用されている。地中熱ヒートポンプは、従来型の設備に比べて省エネ性が高く、CO2排出量の削減効果が大きいことから、将来性の高い再生可能エネルギーの一つである。また、他にない特徴として、冷房廃熱が地中に吸収されることからヒートアイランド対策に有効であると言われている。

これからのわが国のエネルギー事情を展望するにあたり、政府による2030年のエネルギーミックスでは、再生可能エネルギー全体として原油換算で6700万kLの利用が見込まれている。また、パリ協定のもとでわが国では2030年までに2013年度比で26%の温室効果ガスの削減を約束している。地中熱利用がこれらの目標にどの程度貢献できるものか、地中熱利用促進協会では先行する世界各国の地中熱の導入状況と日本の地中熱のポテンシャルを考慮し、2030年代に実現可能な地中熱ヒートポンプの導入量を算定するとともに、それを実現するために必要なプロセスを示す中長期ロードマップを作成した。

このロードマップでは2030年代の地中熱の導入目標として、エネルギーミックスにおける再生可能エネルギー熱利用の導入見込み量1341万kLの10%に相当する134万kLを掲げている。これにより年間100万tのCO2の削減が可能となる。これを実現するために必要な地中熱ヒートポンプの設備容量はおよそ1000万kWとなり、設置件数に換算すると16万件になる。地中熱のポテンシャルは全国に600万~1600万kLあるといわれているので、導入目標としている134万kLを十分賄えるポテンシャルを有している。また、設備容量の1000万kWという数字も、2015年時点で先行する米国が1680万kW、中国が1178万kWの設備容量を有していると報告されていることから、取組方次第で実現可能なものということができる。

2030年代にこの目標を実現するための一里塚として、当面目指すべき2020年の目標も設定した。現在、経済産業省、環境省の補助制度があるので、この制度を最大限活用することが求められる。また、コストの20%低減を目標とした技術開発がNEDOにより実施されており、プロジェクトが終了する2018年度以降、コスト低減による市場の活性化が期待できる。さらに、省エネ基準の適合義務化が拡大していく中で、1次エネルギー消費量が算定できる地中熱ヒートポンプの評価法の整備が進められており、非住宅(2016年適用開始)から住宅へと範囲を広げ2018年ころまでに評価法が整うことも、普及にとっての大きなプラス要因となる。自治体の取り組みも進んでおり、地中熱を環境政策の中に位置づけ、庁舎等の公共施設への導入が進展している。一方、協会では地中熱の認知度を高めるための広報活動に力を入れるとともに、技術者の育成のために地中熱講座と施工の品質確保のための技術者資格制度の活用で、普及促進に取り組んでいく。さらに、地域団体を含め会員数を増やすことで地中熱のプレーヤーを増やすことの取組も進めている。

このようにして当面の普及拡大を図っていくことをロードマップに記載しているが、2020年以降の10年間に再生可能エネルギー熱利用の10%に届くようにするには、これらの取組だけでは十分ではない。現在ようやく端緒についているZEB、ZEHの中に地中熱を導入する取組を本格的に行うのが2020年代であり、さらに地中熱のインフラ化についての取組も必要となる。制度面ではさらなる導入促進策として諸外国に見られるような地中熱を含む再生可能エネルギー熱利用の導入義務化や、現在民間資格である地中熱施工管理技術者の国家資格化などを検討すべきと考えている。これらの取組と併せ、地中熱利用を大きく普及させるには、導入コストの大幅な低減も欠かすことのできない要素である。量産効果と技術の習熟によるコスト削減は、このロードマップに織り込んでいる。

 

ロードマップでは縦軸側に国と自治体の政策を、横軸側に地中熱利用促進協会と地域団体の活動を配置し、中央に地中熱ヒートポンプの普及拡大を表現した。それぞれについてキーワードを用いて表現してある。それらロードマップに掲載した事項については、説明書にまとめて記載した。それぞれの事項についてのデータは特に記述がない場合は、ロードマップを発表した2017年6月7日時点のものである。また、それぞれの事項の説明は、ロードマップを理解するに必要最小限の内容にとどめてある。エネルギー基本計画などの国の基本政策の説明においては、地中熱に関連する部分の引用に限定しており、政策全体の解説は行っていない旨ご了解いただきたい。

2017年8月
NPO法人地中熱利用促進協会
理事長 笹田政克

地中熱普及拡大 中長期ロード マップ(PDFファイル 234KB)   説明書(PDFファイ ル 260KB)

 

 

 

『地球環境に配慮を、猛暑対策に地中熱を』
―新国立競技場の整備計画見直しに向けての提言―

新国立競技場の整備計画見直しを受けて、2015年8月19日、下記の提言を首相官邸の意見募集ページに投稿いたしました。

NPO法人地中熱利用促進協会
理事長 笹田政克

新国立競技場が「アスリート第一の考え方の下に、世界の人々に感動を与える場」(8月14日発表の「基本的考え方」)になることは多くの国民の願いであると思います。そして、新しく建設される競技場が地球環境に配慮されたものになることも、国民の願いではないでしょうか。地球環境を十分考慮することは、「基本的考え方」の中にも書かれていますが、地中熱利用促進協会は真夏に開催される大会で役に立つ再生可能エネルギー『地中熱』の利用について提言をいたします。地中熱利用は環境省が昨年公表した「東京大会を契機とした環境配慮の推進」の中でも、「当面の取組」の一つとしても取り上げられています。

今年は8日間連続の猛暑日となりましたが、2020 年の大会は今年の連続猛暑日と重なる期間に予定されています。また、気象庁の「地球温暖化予測情報」では、2020年頃の東京の夏は平均気温が1℃上昇していると予測しています。このように猛暑が想定される時期での大会は避けたいものですが、一方、たとえ日程を変更しても、長期的に見た新国立競技場の猛暑対策は回避できるものではありません。根本的には地球温暖化対策が必要であり、そのために有効な方法の一つが再生可能エネルギーの利用です。真夏の猛暑対策も再生可能エネルギーの利用で実現させたいところです。

真夏の大会では選手や観客などの健康を考えた時に、冷房の工夫が必要であることは言うまでもありません。予想される猛暑の中でも多くのエネルギーを消費せずに冷房を行う方法に地中熱利用があります。夏でも地中はひんやりとしており、東京では10m下の地中の温度は、年平均気温と同じ17℃です。35℃を超える猛暑日では、気温と地温との差は20℃近くになり、この温度差が冷房に活用できます。四季のある日本ならではの再生可能エネルギーの利用法です。

地中熱ヒートポンプの利用では、通常のエアコンと比較して消費電力が3 分1程度削減でき、大きなCO2 排出量削減効果があります。また、猛暑日でも通常のエアコンのように電力消費量の大きなピークをつくりません。電力需給が逼迫した真夏に適した冷房といえます。また、競技場からの排熱を大気中に放出しませんので、都心のヒートアイランド対策にも役に立ちます。

地中熱は夏の冷房ばかりでなく、冬には温熱として暖房に利用できます。冬も東京では地中の温度は17℃ですので、気温の低い日や夜間に必要な暖房が効率的にできます。

地中熱は冷暖房以外にもスポーツ施設特有の熱需要に適用できます。新国立競技場ではグランドに天然芝を育成し、サッカー、ラグビーなどのフィールド競技を行う計画があります。しかし、観客席が屋根に覆われ日照の制約があると、天然芝には地温管理等が必要となるといわれています。広いグランドの温度管理には多くのエネルギーが必要となりますが、グランドのすぐ下には地中熱があります。地中熱の利用により化石燃料を最小限に抑えた天然芝の育成が可能になります。

また、真夏の大会では60℃を超えるトラック舗装材の冷却も必要となるでしょう。特に短距離のスタート地点の冷却はより必要性の高いものと思います。トラックの冷却は舗装材に冷水パイプを埋め込むシステムで実現できますが、その冷熱源にはグランドのすぐ下にある地中熱が最適です。地中熱の利用によりアスリートが良好な競技環境で活躍でき、しかも地球環境に配慮したシステムができます。

地中熱利用では地中に熱交換器を設置しますので、その分導入コストがかかりますが、この度建設される新国立競技場は長期にわたって利用されるものですので、ライフサイクルコストで考えれば、ランニングコストが安い地中熱を利用した方が経済的になります。また、運転経費が安く済むことは維持管理上の大きなメリットです。地中熱利用設備は十分な耐久性をもっており、地中熱交換器の耐用年数は50年以上あります。したがって、長く使うスポーツ施設の設備には最適です。

地中熱は、これまでに羽田空港の国際線ターミナルビルや東京スカイツリーなどの施設に、又地方でも公共施設、農業施設、介護施設等で利用されており、年々認知度が向上してきています。近年のオリンピック・パラリンピックでは、2008年北京大会でメインスタジアムに地中熱ヒートポンプが大規模に導入されています。

地球温暖化が進む中、猛暑対策も含めて、大会運営に地中熱などの再生可能エネルギーが活用されることを強く望みます。再生可能エネルギーの利用は、東京招致の際の国際公約の一つであることも想い起していただきたいと思います。

 

 

 

 

【舛添要一東京都知事宛】
東京オリンピック・パラリンピック施設への地中熱導入の提言

東京都知事 舛添要一殿

東京オリンピック・パラリンピック
施設への地中熱導入の提言

高度成長期の1964年に行われた東京オリンピックから50年が経ち、成熟期に開催される2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、これからの東京と日本のあり方を示す重要な祭典です。オリンピック・レガシーを理解し、優れた大会にしなければなりません。特定非営利活動法人地中熱利用促進協会では、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会が国際公約として掲げた環境ガイドラインの第1の柱であるカーボンニュートラルの大会実現を目指し、この国際公約実現のために大きく貢献できる再生可能エネルギー地中熱の利用について、経済的かつ効果的な導入を提言いたします。

平成26年7月

特定非営利活動法人 地中熱利用促進協会
理事長 笹田政克

真夏の大会

1964 年の東京オリンピックは、秋晴れの10 月10 日に開会式が行われました。2020 年のオリンピック・パラリンピックは、7 月24 日から8 月9 日までと真夏の東京で開催されることが決まっています。気象庁が昨年3月に公表した「地球温暖化予測情報」(2016~35 年を予測)では、オリンピックが開催される頃の東京の夏は、平均気温が現在より1℃上昇、最高気温30℃以上の真夏日が5日以上増加すると予測しています。地球温暖化が進む中、2020 年の東京オリンピック・パラリンピックはかなりの確率で酷暑の中での開催になりそうです。
選手やスタッフそれに観客の皆様の健康を考えた時、競技施設や宿泊施設に冷房が不可欠であることは言うまでもありませんが、一方、わが国では東日本大震災以降、夏の電力需給がきわめて厳しい状況にあり、たとえオリンピック・パラリンピックであろうとも、冷房で高い電力ピークが生じるようなことは避けなければなりません。

地中の冷熱
このための対応策はすでに検討が始められていると思いますが、無理なくピーク電力を下げて冷房を行う方法に、地中の冷熱を利用する地中熱利用があります。地中は常に年平均気温と同じ温度にあり、夏には冷熱源として利用できます。四季のある日本ならではの再生可能エネルギーの利用法です。冷熱が使える地中熱は、真夏に開催される東京オリンピック・パラリンピックで活用できる最も効果的な再生可能エネルギーです。
10m下の地中の温度は、東京の場合は年平均気温と同じ17℃です。この温度は年間通して一定ですので、35℃を超える酷暑日では、気温との差は20℃近くになります。オリンピックの競技施設や選手村が予定されている東京ベイゾーンには、東京都港湾局の観測井があり地温の観測が行われています。

地中熱利用による効率的な冷房
真夏の東京に存在する地中の冷熱の効率的な使い方は、地中熱ヒートポンプです。冷房時に暑い大気中に排熱する通常のエアコンに比べ、消費電力を3 分1削減できます。省エネですので、エアコンのように真夏に電力のピークをつくりません。電力需給が逼迫した夏に最適の冷房手法といえます。
大きな節電効果のある地中熱の利用は、当然のことですが、CO2 排出量の削減にも大きな効果があります。また、競技施設などからの排熱を大気中に放出しませんので、ヒートアイランド対策にも役に立ちます。これらの効果は環境省が以前から注目しており、地中熱ヒートポンプはヒートアイランド対策技術の一つに位置付けられています。

暖房やプールの水温管理も効率的
真夏の東京での冷熱利用について強調してきましたが、地中が年間通して同じ温度である特性は、冬には暖房が効率的にできることを意味しています。東京での暖房はストーブからエアコンに代ってきていますが、冬のエアコンでは冷たい空気から熱を集めて室内の暖房を行っています。一方、地中熱ヒートポンプは、17℃の地中から熱を取り出しますので、たいへん効率的で省エネになります。
地中熱のもう一つの効率的な利用法に、プールの水温管理があります。年間通して利用する室内プールでは、水温を30℃程度に管理しています。この水温を実現するために数百度の高温のボイラーを使うのが従来の方法ですが、エネルギーのロスが大きいことは明らかです。地中熱ヒートポンプでは、17℃の地中から熱を取り出し、30℃の水温を実現します。ヒートポンプの電力のみで効率的な水温管理ができます。

地中熱利用の経済性と持続性
地中熱利用では地中に熱交換器を設置しますので、その分導入コストがかかりますが、仮設の施設を除き、今回建設されるスポーツ施設は長期にわたって利用されるものですので、ライフサイクルコストを考えれば、ランニングコストが安い地中熱を利用した方が経済的です。今後石油や電力の価格はさらに上昇するものと予想されますので、新しく建設される施設は、再生可能エネルギーの利用を優先すべきでしょう。
地中熱利用設備は十分な耐久性をもっています。地中熱交換器は高密度ポリエチレン製のものですので、その耐用年数は50年以上あります。したがって、長く使うスポーツ施設の冷暖房、プールの水温管理には最適です。

オリンピック・パラリンピック施設への導入提案
わが国では地中熱利用施設として有名なものは、東京スカイツリーですが、数々のスポーツ施設にもすでに地中熱は導入されてきています。近年のオリンピック・パラリンピックでは、2008年の北京大会でメインスタジアムに地中熱ヒートポンプが大規模に導入されています。
東京オリンピック・パラリンピックの室内競技施設、水泳競技施設(室内プール)、選手村への地中熱の導入について、以下に提案いたします。

1.室内競技施設では、床暖房・床冷房と室内の冷暖房に地中熱が利用でき、効率的な温度管理ができます。地中熱利用では、これまで大学や小中高校の体育館、ホールの床暖房・冷暖房の実績があり、空気の吹き出しのない静かな雰囲気でスポーツができる環境を実現できます。秋田市山王中学の体育館への導入例では、運動する生徒のけがが少なくなったという報告があります。省エネですので、災害時の避難場所としても活用していただけます。

2.水泳競技施設(室内プール)の水温管理は、省エネを旨とする地中熱利用が得意とする分野です。ヒートポンプの利用では、熱源側の温度と利用側の温度の差が小さければ小さいほど、高い効率でエネルギー利用ができます。熱源である17℃の地中から30℃の温水をつくる室内プールでの地中熱利用は、きわめて省エネ性が高いと言えます。また、冷房の排熱を温水・給湯に利用する排熱回収システムと併用することにより、さらに熱効率がアップします。渋谷区立本町学園を始めとしていくつかの学校や公共施設のプールで地中熱が利用されています。

3.選手村のエネルギー供給にも活用できます。選手村ではエネルギーの面的利用が検討されており、太陽熱、海水熱や下水熱などが候補にあがっていますが、その中の熱源のひとつに地中熱を導入することの効果は大きいと言えます。再生可能エネルギーの中で、地中熱は夏の冷熱源としては最も優れています。また、もっとも身近にあるポテンシャルの大きな熱源であることも優れた点です。再生可能エネルギーを用いた環境技術で、効率的な冷暖房、給湯のシステムが構築できると期待しています。

おわりに
東京都ではオリンピック・パラリンピック基本計画を今年末までに策定すると聞いております。基本計画では地球温暖化対策等の環境面での検討や省エネ、節電についての検討も行われるものと思います。是非とも、冷房における地中熱利用の優位性を関係者の皆様に理解していただき、2020 年の盛夏に行われる東京オリンピック・パラリンピックで地中熱を活用していただけますよう、よろしくご検討をお願いいたします。
優れた環境技術を東京オリンピック・パラリンピックの施設に導入することは、オリンピック・レガシーの実現に寄与するものです。

 

東京オリンピック・パラリンピック施設への地中熱導入の提言 (pdf版資料)

節電に最も効果のある地中熱ヒートポンプ

平成24年7月24日

節電に最も効果のある地中熱ヒートポンプ

NPO法人 地中熱利用促進協会
   原発事故以降の電力不足の中で、今年も節電への対応に苦しい取り組みをされているのではないでしょうか。節電・省エネをお考えの皆様に地中熱を利用した節電法についてご紹介します。毎年、夏の午後のピーク電力への対応が、節電においては最も切実な問題です。夏の暑い時期にこれ以上の節電というと、あとは快適性を犠牲にして冷房を切ったりするしかないと思われている方も多いと思います。しかし、その選択肢は熱中症のリスクを抱えていますし、そこまで行かなくとも作業能率の低下という問題が残ります。

自然界には意外に身近なところに冷たい場所(冷熱源)があります。皆様の足下にある地中の温度は年間通して一定しており、ほぼその地域の年平均気温と同じです。この地中にある熱(地中熱)は、夏は冷熱源として、冬は温熱源として利用できます(図1)。

地中熱を利用した  エアコン(地中熱ヒートポンプ:図2)を使うと、通常の空冷エアコン(空気熱源ヒートポンプ)に比較して格段に少ないエネルギーで冷房ができます。その原理を簡単に説明します。熱は温度の高いところから低いところに向かって流れます。従って、空冷エアコンで室内の排熱をするためには、室外機から放熱する際の 温度を、外気温より高くする必要があります。その状況は、エアコンの室外機からの熱風を体感された方にはご理解いただけると思います。特に夏の暑い日は放熱のために、より多くの電力が使われることになります。一方、地中熱ヒートポンプでの放熱先の地中は、夏は冷えていますので、たやすく熱が逃げてくれ、少ないエネルギーで室内の排熱が可能になります。地中熱ヒートポンプは空冷エアコンより格段に少ない電力で冷房ができるのです。
この仕組みから、特に夏に多くの電力を消費する酷暑日ほど、地中熱ヒートポンプの節電効果が大きくなることを理解していただけると思います。冬の暖房も同じです。冬季には逆に地中の温度が気温より高くなっていますので、地中熱ヒートポンプによる暖房が効率的にできます。昨年は節電で石油ストーブが売れましたが、化石燃料の消費は地球温暖化対策だけでなく貿易収支の面からも問題です。地中熱のような国産の熱エネルギーを使っての節電が望ましい姿だと思います。
業務用の地中熱ヒートポンプと空冷エアコンの実績値を比較してみると、空調を地中熱にした場合、少なく見積もっても消費電力は3分の1程度削減できる見込みです(図3)。また、地中熱利用は、冷房排熱を外気に放熱しませんのでヒー トアイランド対策にも効果的です。外気が高温にならない分だけ、冷房の電力消費を抑えることができますので、これも節電に加算されます。日本地熱学会では地中熱利用が普及した際のヒートアイランド現象抑制効果も考慮すると、空冷エアコン利用時と比べ、冷房時の消費電力は半分程度になると試算しています。

それでは、地中熱ヒートポンプの導入により、夏の電力のピークカットにどの程度の貢献ができるでしょうか。東電管内の業務用空調について見ると、夏の冷房需要が1,000万kWあります(図4)。地中熱ヒートポンプの導入による電力削減に、ヒートアイランド抑制効果による電力削減を加え半分が削減できるとすると、東電管内の業務用だけでも500万kW程度の節電効果になるものと考えられます。これに家庭用の空調も考慮し全国規模で予測してみると、東電の電力供給は全国の約3割ですので、日本全体では地中熱ヒートポンプの導入による節電効果は1,000万kWを大きく超える規模になるものと推定されます。
そうはいっても、地中熱の利用はまだわずかです。これは認知度が低いこともさることながら、初期コストが割高であることが普及の障壁となっています。地中熱利用による省エネ効果で、ランニングコストは大幅に削減できますので、長期にわたって利用すれば初期投資は回収できるわけですが、その回収年数が10年以下になってい る設備はまだ少ないのが現状です。しかし、2010年に地中熱は再生可能エネルギーとして国に認知され、国からの助成が受けられるようになりました。経済産業省による再生可能エネルギー熱利用の助成事業や、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス推進事業等では、地中熱ヒートポンプへの導入支援の補助金があります。新エネルギー導入促進協議会、環境共創イニシアチブが、2012年度の助成事業の窓口となっています。このほか、地域によっては地方公共団体からの助成も受けられます。
地中熱ヒートポンプは、今年5月に開業した東京スカイツリーでも、高効率な冷暖房システムの中で活用されています。ここ数年全国的に地中熱ヒートポンプの導入が増えてきています。これから地中熱利用の普及が進展すれば、再生可能エネルギーの熱利用分だけ、発電所の設備容量を削減することが可能になります。節電・省エネの有力な手段ですので、新築や設備更新の際に是非地中熱の利用をご検討ください。
 

節電に最も効果のある地中熱ヒートポンプ (pdf版資料:235kB)

震災復興に取り組まれている皆様へ

平成23年6月7日

コミュニティ再生における地中熱の活用
- 震災復興に向けての提言 -

NPO法人 地中熱利用促進協会
1.はじめに このたびの東日本大震災で被災された皆様に心よりお見舞いを申しあげます。
東日本大震災とそれに伴う原発事故を受けて、わが国のエネルギー政策の見直しが始められています。再生可能な自然エネルギーがこれからの日本のエネルギーを担う1つの柱として注目を集めていますが、これからご紹介する地中熱は、日本中どこでも安定的に利用できる自然エネルギーです。地中熱は昨年改訂されたエネルギー基本計画に初めて取り上げられましたが、まだ国民の皆様に十分認知されている状況にはありません。環境性に優れた地中熱の利用についてご理解いただき、地中熱を被災地の復興に活用していただけますよう、これまでこの分野で数多くの経験をもつ地中熱利用促進協会は、この提言を作成いたしました。
地中熱利用促進協会は、設立8年目を迎えたNPO法人で、国民の生活環境の向上に寄与することを目的にして、地中熱利用に関する知識と地中熱利用技術の普及促進の活動を行っています。環境関連の展示会への出展やホームページ等での広報、市民相談等を通じて、多くの方に地中熱の優れた特性を知っていただくとともに、シンポジウムや講習会の開催、施工管理マニュアルの作成等で、地中熱利用技術の普及に努めてきています。2011年5月18日時点での当協会の会員数は、団体会員125社、個人会員41名、大学・官庁等の賛助会員53名です(https://www.geohpaj.org/wp2/index.htm)
この度の東日本大震災からの復興に向けて、当協会では震災復興のタスクフォースを結成し、これまでの経験と実績をもとに、将来の日本のモデルになるような自然エネルギーを使った持続可能な社会を実現するために、地中熱利用でどのような貢献ができるかを検討いたしました。この提言はそのタスクフォースでの検討結果を取りまとめたものです。当協会ではすでに4月19日に節電・省エネに向けた緊急アピールとして「切り札は地中熱ヒートポンプによる冷暖房です」を発表し、ホームページに掲載しておりますので、この提言とあわせてご活用ください。

2.地中熱とは

 地球のエネルギーである地熱と地中熱は、太陽、風力、水力、バイオマスとともにポテンシャルの大きな自然エネルギーです。同じ地球のエネルギーでも、発電に利用される地熱エネルギーの分布が、火山の周辺の場所などに限られているのに対して、年間通して温度変化の小さい地中の熱的特性を活用する地中熱は、日本中どこでも利用できます。地表から10mくらいの深さのところでは、その場所の年平均気温とほぼ同じ温度になっており、年間を通してその温度はほとんど変化しませんので、地中熱では夏冬の地温と気温の温度差をエネルギーとして利用します(図1)。
夏にトンネルの中はひんやりしますが、それはトンネルが冷房されているわけではなく、気温に比べて夏は地中の温度が低いからです。冬は逆に地中の温度が気温より高くなります。井戸水が夏冷たく感じられ、冬暖かく感じられるのと同じです(図2)。



このように気温が変化しても地温が一定であることは、昔から農村でもよく理解されており、野菜を一定温度の場所に貯蔵する「むろ」として、地中が活用されてきました(図2)。地中の温度が一定であることは住宅にも利用されており、私たちの先祖は縄文時代に竪穴住居に住んでいましたが、これも夏冷たく、冬暖かい地中熱をうまく取り入れた方法です(図3)。

3.地中熱の利用

年間通して温度が一定の地中熱は、いつでもどこでも利用できる状態にあります。現代の技術を使うと、この地中熱はどのように利用できるでしょうか。
地中熱の利用の仕方にはいろいろな方法があります。竪穴式住居は、地中と地上との温度差を巧みに利用して生活空間を作ったものですが、熱伝導を利用したこのような直接的な利用の仕方は現代の建築物にも取り入れられています。断熱性と気密性に優れた住宅では、床下からの伝熱として地中熱を利用できると言われています。パッシブハウス的な発想です。地中熱のエネルギーをもっと積極的に利用しようとすると、地中に孔をあけ、パイプを埋め込み、そこに空気を循環させたり、水や不凍液を循環させて、地中で熱交換して熱を取り出す方法があります。空気を循環させる方法では、地中熱換気システムとして地中熱が利用できます。
一方、地中に埋設したパイプに水(不凍液)を循環させると、さらに効率的に地中熱の利用ができます。この水(不凍液)循環に省エネ機器であるヒートポンプを組み合わせたシステムが、地中熱ヒートポンプシステムで、地中に水等の流体を循環させる方法のほか、汲み上げた地下水と熱交換を行う方法があります。地中熱ヒートポンプシステムは、住宅や事業所で必要とされる熱需要に対応できるシステムです。これは世界的にみて、もっともポピュラーな地中熱の利用方法です(図4)。

地中熱ヒートポンプシステムは、一般住宅のほか、オフィス、店舗、学校、病院、宿泊施設、温浴施設、老人ホームなどの福祉施設、道路や駐車場の融雪施設などで、冷暖房、給湯、融雪に利用されています。特に、熱需要の多い病院、温浴施設、福祉施設は、地中熱の利用に向いており、また、最近では待機中の消防自動車の保温のため北海道の消防署での導入が進んでいます。
この資料では、以下、地中熱ヒートポンプシステムに焦点を合わせて、地中熱利用についての説明をします。

4.地中熱ヒートポンプの優れた点

 地中熱ヒートポンプシステムは、自然エネルギーである地中熱を使い、また省エネ機器であるヒートポンプを使っていますので、環境性能は抜群です。これまで石油を暖房に使っていた施設で地中熱ヒートポンプに代替すると、大きな省エネ効果とともに大きなCO2削減効果が得られます。たとえば、青森県の公共施設に地中熱ヒートポンプシステムを導入した例で見ると、省エネ率が46%、CO2削減は50%となっています(図5)。

5.地中熱の普及状況

 地中熱ヒートポンプの利用は、近年欧米諸国において急速に広がりつつあります。図6では5年ごとのデータを比較していますが、アメリカが一番普及しています。世界的に見ると地中熱は、他の自然エネルギー同様にこの15年間に大きな伸びを示しています。アジアでは中国の伸びが大きく、アメリカに次ぐ設備容量となっています(図6)。
わが国でも地中熱ヒートポンプの利用施設は、増加しているのですが、その絶対数が極めて少なく、欧米・中国に大きな差を付けられているのが現状です。わが国の地中熱の普及が極めて少ないのは、欧米諸国や中国では国のエネルギー政策として地中熱への助成措置が講じられていたことに対し、わが国の場合、昨年まで国のエネルギー政策の中に、地中熱がはいっていなかったことが大きな要因の一つと考えられます。
昨年改訂されたエネルギー基本計画で、初めて地中熱が再生可能エネルギーとして政策に位置づけられました。 そして、本年度は経済産業省の再生可能エネルギー熱利用拡大の政策として、地中熱利用にも導入支援のための助成制度が実現しています。これに関連してマスコミでも地中熱を取り上げていただける機会が増え、ようやく地中熱の本格的な普及が始まる状況にあります。

6.他の再生可能エネルギーとの違い

地域では様々な自然エネルギーが利用できますが、それぞれに利用できる場所、時間帯の制約があるものが多く、利用形態も様々です。これらの自然エネルギー比較してみると、それぞれの自然エネルギーの特性が見えてきて、利用者側のニーズや利用場所との関係でエネルギーを選択することができると思います(表1)。
太陽光による発電や、太陽熱利用のすばらしさは、どこでも使えるという点です。但し、雨や雪が降ると使えませんし、当然ながら、夜間は使えません。それに対し、地熱発電は、場所は限定されますが、稼働率は95%を超え、抜群の安定性を誇っています。
地中熱及びバイオマス(木質ペレットなど)は、夏でも冬でも、昼間でも夜でも、使えるという点で、使い易いエネルギーとなっています。地中熱は、発電はできませんが、熱利用ということでは、最も幅広い需要に応えられます。それは、一年を通して温度が一定であるため、冷熱と温熱が利用できるためで、これは他の自然エネルギーにないたいへんユニークな特徴です。また、時間および場所の制約がともにないことも、他の自然エネルギーにない特徴です。つまり、東北地方の被災地ではどこでも、復興に必要なエネルギーを地中から取り出すことができます。

7.地中熱を利用したコミュニティ再生

昨年出された新成長戦略では、「グリーン・イノベーション」が成長分野のトップに挙げられています。環境・エネルギー大国を目指すグリーン・イノベーションでは、低炭素社会を実現するのみならず、新しい価値の創出により経済成長を牽引することが求められており、自然エネルギーの大量導入が大きな要素となることは確実です。そして、原発事故を伴う3月11日の東日本大震災は、この自然エネルギーに向かう流れを、大きく加速しました。
被災地の復興にあたり、復興構想会議では5月10日の会合で復興構想7原則を策定しており、その中に「地域社会の強い絆を守りつつ、災害に強い安全・安心のまち、自然エネルギー活用型地域の建設を進める」(原則4)が書かれています。そしてこの原則について書いた文書の最後に、「各界・各層のご意見を仰ぎつつ、さらに議論を深め、未来の日本にとって希望となる復興の『青写真』を描きたい」と書かれています。
東日本大震災被災地のコミュニティ再生にあたり、自然エネルギーを活用することは、まさに時代の流れであり、将来のわが国のモデルとなる構想を是非ともまとめていただきたいと思っています。そのためには先に述べましたように、それぞれの自然エネルギーのもつ特性を理解していただくとともに、実際の活用の仕方について理解していただき、復興の『青写真』を作っていただくこと重要であると思っています。
このような視点から、復興での街づくりに地中熱がどのように活用できるかについて、以下に説明いたします。

このイメージ図では、地中熱を利用したコミュニティの再生を描いています(図7)。建物が大都市のように密集せず、この図に描かれている程度の建物間隔でコミュニティが構成される場合、自然エネルギーである地中熱の利用で、それぞれの施設の冷暖房・給湯・融雪の熱エネルギーは、全て賄うことができます。しかし、地中熱の場合は、電気をつくることができませんので、コミュニティに必要なエネルギーを100%自然エネルギーで賄うには、住宅や建物を活用した太陽光発電や、近隣の立地条件のよい場所での風力発電や小水力発電との組み合わせが必要となります。さらに、バイオマスや太陽熱もそれぞれの特徴と地域の社会構造を考慮して組み合わせていけば、それぞれの地域で自然エネルギーのベストミックスができるはずです。
自然エネルギーには電気としての使い方と熱としての使い方があります。電気は送電網によるエネルギーの搬送が可能ですが、熱の長距離の搬送は経済性やエネルギーロスの面から好ましくなく、その場で使うことが原則です。また、電気の貯蔵には経済性の壁がありますが、熱の場合は蓄熱が比較的容易であるという利点があります。これらの特性を理解しながら、自然エネルギーからの供給を、ITを活用しながら、様々なエネルギー需要と組み合わせていくと、自然エネルギーをベースにしたスマートコミュニティができあがるのではないでしょうか。
さて、イメージ図(図7)に戻り、地中熱を利用した施設を紹介します。街の中央に公園があり、そこに地中熱を取り出す熱交換器が何本も埋設してあります。この公園の下から取られた熱が集められて、隣接する集合住宅に供給され、住宅の冷暖房に活用されます。これまで、かなりの数の戸建住宅で地中熱を利用した設備が設置されていますが、このように地中熱利用設備を共通インフラとして、まとまった形での利用する例は初めてです。地中熱交換器を共有する形がとれるとスケールメリットがあり、効率的かつ経済的な利用ができますので、初期コスト低減も可能となるなど、この例はわが国の地中熱利用における先駆的なモデルになります。
公園の手前にある時計台のある建物は役場です。職員のほか多くの人が訪れる場所ですので、どの役場にも広い駐車場があります。そのスペースがあれば十分な数の地中熱交換器が埋設でき、庁舎の建物全体の冷暖房が地中熱でできます。また、防災用の井戸を準備すると思いますので、平時はその井戸水の熱を利用することで、さらに効率的なエネルギー利用が可能になります。井戸水の利用については、次の項で説明します。
役場の左手には病院があります。病院は熱需要の大きな施設であり、現在、どの病院も省エネ・CO2の削減に向けた努力をしていますが、地中熱利用はその解決策になります。NEDOの高効率エネルギーシステム導入促進事業の報告書には、40%の省エネを実現した病院の事例が掲載されています。病院のように24時間冷暖房が必要で、しかも大きな給湯需要があるところは、地中熱の利用に向いており、初期コストを短い期間に回収することができます。また、最近、放射冷暖房を導入する病院が増えてきていますが、地中熱を利用すると、放射冷暖房で室内に流す冷温水の温度が地中熱の温度に近いため、たいへん効率的な運転ができます。
病院から通りを隔てたところにコンビニがあります。ここでは、建物の下にある杭に熱交換器を付けた形で地中熱と利用しています。ある程度大きな建物では基礎杭を打つケースが多くみられますが、この杭を利用する方法は最近多く採用されるようになっており、熱交換器の設置コストの低減に寄与しています。
さらにその奥にあるのが消防署です。積雪地域であれば消防自動車が出動する路面の融雪が必要です。また消防自動車が屋内で待機しているときに、冬季であればエンジンが冷えない適温の暖房が必要です。このような加温にはそれほど高い熱源を導入する必要はなく、地中熱が熱源としてたいへん向いています。
消防署の右隣にあるのが学校です。ここではプールと体育館に注目してください。プールでは地中熱を利用すると効率的に温水が供給できます。また、体育館では床暖房に地中熱を利用すると冬の寒い時でも、足下を気にせずに運動に専念できます。
学校から通りを隔てた手前側にビニールハウスがあります。最近は、地中熱の農業利用に向けた数多くの取り組みが行われています。ここで注目してほしいのが、地中熱交換器が水平型になっている点です。ボーリングによる垂直型のものに比べて経済性があると言われています。この熱交換器については次の項で説明します。
ビニールハウスの前の通りには、融雪用のパイプが埋設されています。積雪のあるところでは、いろいろな熱源で融雪がなされていますが、自然エネルギーである地中熱を使った融雪システムは、すでに数多くの実績があります。
最後に一番手前にある戸建住宅ですが、これは現在普及しているごく一般的な地中熱の利用例です。ボーリングにより地中熱交換器を埋設する工法で、安定的に地中熱を利用していただけるシステムです。
地中熱にはこのイメージ図に描かれているように、多様な使われ方がありますので、復興計画を策定される際には、それぞれのニーズとのマッチングをはかっていただきたいと思っています。

8.地中熱の取り出し方

最後に地中からの熱の取り出し方について説明します。地中熱利用ヒートポンプシステムでは、熱源を地中そのもの(土壌、地層、岩盤など)に求めるか、地中から汲み上げた地下水に求めるかで、システムの構成が異なります。地中そのものに熱源を求める場合は、図8にあるような地中熱交換器を設置します。地中熱は熱交換器中のパイプの中を流れる水(不凍液)を通して採放熱されます。このシステムはクローズド型(あるいはクローズドループ)と呼ばれます。もうひとつのシステムは、地中の帯水層中から汲み上げた地下水から採放熱するもので、地下水は外界の一部となっていますのでオープン型(あるいはオープンループ)と呼ばれます(図9)。熱源の利用が効率良く行われれば、地中熱の導入コストが下がります。
以下に、それぞれについて、熱の取り出し方を説明します。

8.1.クローズド型
・垂直型熱交換器
地中の熱源からエネルギーを取り出す際に、通常用いられているのが垂直型熱交換器です。垂直型地中熱交換器は、100m程度のボーリングをし(掘削機で地中に孔をあけ)、その孔にポリエチレン管を挿入します。そして、そのポリエチレン管に水(不凍液)などを循環させることで熱交換器として機能します。垂直型熱交換器には、ボーリング孔のほか基礎杭や採熱用鋼管杭なども利用されています。

・水平型熱交換器
これまで我が国では、地中熱ヒートポンプを利用する多くの場合、垂直型熱交換器が使われてきました。しかしながら、米国では水平型熱交換器が、よく使われています。この熱交換器は、広い設置面積を必要とすることから、我が国では普及していませんが、復興に際して、あらかじめ水平型熱交換器を埋設できる場合には、これを利用するのも、初期コストを下げるのに良い方法です。この熱交換器は、ボーリング用掘削機といった特殊機械ではなく、通常の土木機械によって設置可能です。

8.2.オープン型
オープン型地中熱ヒートポンプシステムでは、地中から汲み上げられた井戸水(地下水)を熱源に用いますが、農業用水、工業用水も熱源として用いることができます。農業用水や工業用水で地下水を使っている場合は、それらの水温は通年比較的安定しています。農業用水、工業用水で、ダム等の地表水から取水されている場合は、地中熱利用とは呼べませんが、ヒートポンプを用いた利用の仕方は同じですので、それぞれの地域の状況に応じて検討されるのがよいと思います。

・井戸水
井戸水は通年その温度がほぼ一定していますので、地中熱ヒートポンプシステムで有効に使える熱源です。現状では、井戸水を利用したオープン型のシステムは、地中熱ヒートポンプシステム全体の20%程度の件数です。このシステムの経済性は高いのですが、熱交換をした後の井戸水は、地下に戻して利用するのが原則となりますので、還元井戸の目詰まり等のメンテナンスが必要であるため、ある程度の規模以上の施設に向いています。
被災地におけるコミュニティ再生においては、防災用の井戸水を熱源とする地中熱ヒートポンプシステムも検討されてみたら如何でしょうか。防災井戸は全国各地に多く設置されていますが、通常は使用されていません。防災井戸は、単独に設置されることはほとんど無く、公民館など公共施設の付属施設であることが多いので、平常時には、この井戸から水を汲み上げ、冷暖房の熱源として活用することができます。例えば、イメージ図(図7)にあるように役場に防災井戸が常設されている場合、役場の冷暖房を地中熱化するための一助となります。

・農業用水
施設園芸を行っている地域では、農業用水がグリーンハウスまで水配管がされていますので、きわめて容易にかつ安価に熱利用が可能となります。グリーンハウスにおける農業用水の熱利用には、すでにいくつかの実施例があり、成果を上げています。栽培する品種によって、空調温度の設定が異なってきますが、地中熱ヒートポンプシステムではどの品種にも適用できる温度制御ができます。

・工業用水
工業用水の利用方法は千差万別ですが、夏期に水温が現状より5℃上がっても問題がない使われ方、又は、冬期5℃下がっても問題がない使われ方をしている工場も多いと思われます。このような工場では、工業用水の取り入れ口に、熱交換器を設置することで、工業用水を地中熱ヒートポンプシステムの熱源とすることができます。

9.おわりに

東日本大震災からの復興にあたって、創造的な復興が唱えられています。復興会議の原則4は「自然エネルギー活用型地域の建設」です。自然エネルギーを活用した創造的なエネルギーシステムを東日本につくるチャンスです。また、自然エネルギーを利用したスマートコミュニティの概念を実現できるチャンスでもあるはずです。被災地に再生されたコミュニティが、これからの日本を先導するエネルギーモデルとなったら素晴らしいと思います。自然エネルギーの活用においては、この提言で述べた地中熱もその一翼を担うことができると信じています。

NPO法人地中熱利用促進協会では、東日本の被災地復興への支援を続けていきますので、地中熱利用に関するご質問、ご意見がありましたら、協会事務局まで御連絡をお願いいたします。

震災復興に取り組まれている皆様へ(pdf版資料:826kB)