地中熱利用促進協会 地中熱利用をお考えの全ての方にご協力いたします!

Geo-Heat Promotion Association of Japan

協会からの提言

地中熱普及拡大に向けた政策提言
―公共施設における地中熱利用―

平成30年3月
特定非営利活動法人 地中熱利用促進協会

 

1.はじめに

地中熱利用促進協会は、2004年に設立されたNPO法人で、国民の生活環境の向上に資することを目的として、地中熱利用に関する知識と技術の普及促進のための活動を行っています。
地中熱は地表近くにある再生可能エネルギーで、ヒートポンプを用いて冷暖房の熱源として利用する方法が世界的に見て最も普及が進んでおり、化石燃料を用いたボイラーや空気熱源のヒートポンプなどのシステムと比較して大きな省エネ効果があるだけでなく、CO2排出量の削減においても大きな効果が得られることが実証されています。
地中熱は10年ほど前までは、国の新エネルギー政策に入っていなかったために、太陽熱などの再生可能エネルギー熱と比べて、国や地方自治体の政策に採用いただくのに後れをとっていましたが、2010年にエネルギー基本計画(第三次)で取り上げられると、翌11年から経済産業省の再生可能エネルギー熱利用補助金の対象となり、13年からは環境省の補助金も使えるようになるなど、全国的な普及が加速しつつあります。
地中熱利用促進協会では、2016年に再生可能エネルギーと地中熱に関する自治体の政策について、公表資料を対象にした独自調査を行いました。それによると、全国47都道府県すべてにおいて、再生可能エネルギーならびに地球温暖化対策に関する政策があり、そのうち28の都道府県と7政令指定都市が地中熱利用を政策の中で取り上げていることがわかりました。一方、環境省の調査では地中熱利用設備を導入している公共施設がすでに全国で100か所以上あることが明らかになっています。公共施設に地中熱が導入されるということは、国や地方自治体に地中熱を安心して使えるエネルギーと認知していただいたこととなり、民間への大きな波及効果につながります。本提言では、現時点での自治体での政策を踏まえ、公共施設での地中熱利用の優れた点について、環境性、経済性、多様性、耐久性等の視点から紹介いたします。この提言の趣旨を生かしていただくことで、公共施設における地中熱利用設備の導入が地方創生につながる一助となることを期待しております。

 

2.エネルギー先進国における再生可能エネルギー熱利用

再生可能エネルギー利用の先進国と言われるドイツでは、2010年9月、当時のメルケル政権が、①省エネの推進、②エネルギーの高効率での利用、③再生可能エネルギーの推進を柱とした「エネルギーヴェンデ(エネルギーの大転換)」と呼ばれる新しいエネルギー戦略を決議しました。
ドイツのエネルギーヴェンデの中で最も大きなカギを握るのは「省エネ」であり、省エネのポテンシャルの最も大きな部分は、建物における「熱」の消費量削減であると考えられています。ドイツ連邦経済・エネルギー省の統計によると、2012年の社会全体の最終エネルギー消費量のうち、29%が建物の暖房、5%が温水供給、21%が産業などの工程で使われる熱であり、冷房および産業用の工程で使われる冷却用の熱2%とあわせると、社会のエネルギー消費のうち57%が熱エネルギーとして利用されており、そのうち34%が建物の給湯と暖房となります。2015年度の日本のエネルギー白書においても、家庭部門における熱需要は53%(暖房22%、給湯29%、冷房2%)、業務他部門では43%であり、省エネ対策の柱はいかに建物内での「熱」消費を少なくするかにかかっているかがわかります。このようなエネルギー消費構造の中で、私たちの足元に眠っている地中熱を給湯と暖房の熱源に利用することは、とても理にかなった利活用方法ではないでしょうか。

 

3.我が国の地中熱のポテンシャルと導入目標

我が国のエネルギー事情を展望する2030年のエネルギーミックスでは、再生可能エネルギー全体として原油換算で6700万kLの利用が見込まれています。また、パリ協定のもとで2030年までに2013年度比で26%の温室効果ガスの削減を約束しています。地中熱利用促進協会では、地中熱利用がこれらの目標にどの程度貢献できるものか、先行する世界各国の地中熱の導入状況と日本の地中熱ポテンシャルを考慮し、2030年代に実現可能な地中熱ヒートポンプの導入量を算定するとともに、それを実現するために必要なプロセスを示す中長期ロードマップを作成し、2030年代の地中熱の導入目標として、エネルギーミックスにおける再生可能エネルギー熱利用の導入見込み量1341万kLの10%に相当する134万kLを掲げました。これにより、年間100万tのCO2の削減が可能となります。
2030年代にこの目標を実現するための一里塚として、地中熱利用促進協会では、当面目指すべき2020年代の目標も設定し、普及に取組んでいます。現在、経済産業省、環境省の補助制度があるだけでなく、トータルコストの20%削減を目標としたNEDOの技術開発が実施されており、プロジェクトの最終年度となる2018年度以降、コスト低減による市場の活性化も期待されています。さらに、建築物省エネ法の施行により、省エネ基準の適合義務化が拡大していく中で、一次エネルギー消費量が算定できる地中熱ヒートポンプの評価法の整備も進められており、非住宅(2016年適用開始)から住宅へと範囲が広がって評価法が整うことは、地中熱利用の普及にとって追い風であり、大きなプラス要因となっています。

 

4.地中熱利用と地方創生

国土交通省が2011年2月に発表した「国土の長期展望」によると、日本は2004年に既に人口のピーク(1億2748万人)を迎えており、今後急激な人口減少が進み、2030年には1割以上が減少し、1億1500万人まで減ることが予測されています。
このような状況の中、地域が持続的に発展するための一つの方法として、地中熱を含めた再生可能エネルギー利用の導入拡大によって、化石燃料等のエネルギーの対価として地域外に流れているお金を、地域内でエネルギーを生産することやエネルギー消費量を削減することで、地域内に還流させる新たなビジネスモデルがこれまでに提案されてきています。
地中熱ヒートポンプシステムを導入するにあたっては、地中の掘削から、配管、ヒートポンプ機器の設置、制御などの幅広い技術が必要であり、設計事務所、建設会社、工務店、ハウスメーカー、井戸掘削会社、設備会社、ヒートポンプ製造会社等、様々な業種の参加が求められることから、その地域の企業が参入する機会が増え、地中熱の導入は地域産業の活性化に貢献します。
また、環境省の補助金「再生可能エネルギー電気・熱自立的普及促進事業」は、主に地方公共団体が対象であり、「【第1号】熱利用設備導入促進事業」における市町村への補助率は2/3と極めて高いものとなっていることから、地方公共団体においては積極的な活用を進めていただき、特に、地域のランドマークとなるような建物に地中熱を導入いただくことで、地域に生活する住民が、地産地消かつ分散型エネルギー源である地中熱の存在を身近に感じ、それに伴って省エネが促進され、設置件数が増えることでイニシャルコストも下がり、地域経済も活性化されるという正の連鎖が実現していくことを強く期待しております。

 

5.公共施設における地中熱利用

これまでも地中熱は、庁舎や学校、コミュニティ施設などを中心に、全国の公共施設への導入が進められてきましたが、地中熱の普及を拡大していくには、先行して公共施設への導入が進み、民間施設へ波及していくことが望まれます。
今後、公共施設は統廃合が進められることが予想されており、長期的な利活用が求められます。省エネ性と環境性に優れた地中熱ヒートポンプは、熱需要の大きな施設ほど初期コストの回収年数が短くなることから、公共施設の中でも病院や福祉施設といった、年間を通して熱需要の大きい施設への導入件数が増える傾向にあります。また、これから公共施設を新築・改築する際には、最新の省エネ設備や多様な再エネ設備が導入されたネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)を目指す時代が到来する中、地中熱はZEBの実現における省エネの大きな構成要素となります。また、建築確認申請時に地中熱ヒートポンプの省エネ性能評価ができるようになったことで、今後地中熱利用の導入件数が大きく伸びるものと予想しています。
地中熱利用促進協会では、雑誌・書籍等において取り上げられた公共施設への導入事例についても調査を行い、82件の施設について、導入理由とメリット、先進性・モデル性などの特徴、性能・効果、政策・補助事業の項目についてまとめ、ユーザーである自治体が、どのような導入目的や経緯で地中熱を導入し、どのようなメリットと効果を期待しているかについて分析・整理いたしました(参考文献)。

図1 導入理由とメリット
(参考文献:「公共施設への地中熱の導入事例分析」に基づく)

 

公共施設へ地中熱を導入する際にメリットとして考えられた項目を整理すると、図1のようにまとめられます。メリットとして挙げられた主要な項目は、当協会でも地中熱導入効果の大きいものと考えております。これらのうち下記の上位3項目(環境配慮、コストメリット、地産地消のエネルギー利用)について、これらのメリットを具体的に説明いたします。

・再生可能エネルギーの導入、省エネ・CO2削減などの「環境配慮」  …22件
・ランニングコスト削減、補助金を含む「コストメリット」  …20件
・地下水が豊富などの地域における地中熱有利性(「地産地消のエネルギー」)  …10件

 

「地産地消のエネルギー利用」と「環境配慮」

国のZEBの推進に伴い、地方の公共施設もますますエネルギー・環境に配慮した設備導入が求められています。また、地下水熱を含むその地域で得られる地産地消のエネルギーである地中熱を利用することは、BCPや地域産業の活性化の観点からも有意義です。地中熱利用は、消費するエネルギーの大半を地中熱で賄うことにより、CO2排出量を大幅に削減することが可能であり、騒音や排ガスなど周辺環境への負荷も少ないことがいえます。例えば、図2の温水プールの導入事例では従来方式に比較し55%、庁舎の空調利用では同じく45%のCO2排出量を削減しています。地下水が豊富な地域や地盤の熱伝導率の高い地域などでは、さらに効率的な地中熱活用が可能となり、まさに究極の地産地消のエネルギーとなります。

図2 CO2排出量の削減効果

 

「コストメリット」

導入事例分析ではランニングコスト30~40%の削減効果を上げており、青森県や北海道など寒冷地では、50%を超える事例もあります(参考文献)。図3は、地中熱とバイオマス併用システムの導入により、従来方式よりライニングコストを46%削減した庁舎空調利用の事例です。イニシャルコストは、環境省など補助金の活用により軽減することができます。
地中部分の配管は樹脂製であり耐用年数が長いこととメンテナンスも軽減されることから維持費の軽減につながり、ライフサイクルコストでも有利です。また、ESCO事業などエネルギーサービス事業や民間資金の活用により、初期投資を軽減することも可能です。

図3 ランニングコストの削減

 

これら自治体の皆様がよく認識されているメリットの他、この82件の調査では目立ちませんでしたが、公共施設への導入を検討される際に考慮していただきたい地中熱利用のメリットを3点、以下に説明させていただきます。

 

「多様かつ幅広い活用方法」

学校など教育施設、庁舎やコミュニティ施設、温浴施設、病院・福祉施設、融雪施設など多様な用途に地中熱利用ができます。システムパネルの設置など「見える化」することにより学校では環境教育に活用でき、庁舎・コミュニティ施設では住民に対して環境意識の啓発にもつながります。また、公共施設は災害時には防災拠点としての機能も求められることから、太陽光発電・蓄電池などともに省エネ設備である地中熱を導入することは、BCPの観点から有効です。例えば、図4はゼロエネルギー庁舎のコンセプトで、東日本大震災で被災し、国土交通省が現地に再建した石巻港湾合同庁舎にも、地中熱ヒートポンプシステムが導入されています。

図4 石巻港湾合同庁舎イメージ図 (提供:国土交通省東北地方整備局)

 

大規模な施設では、水蓄熱方式や従来の空気熱源方式を併用することで、イニシャルコスト・ランニングコストを低減することができます。さらに、床暖房など輻射冷暖房を採用することで、快適な環境づくりが可能となります。このような多様な用途と幅広く活用できるのも、地中熱の特徴です。

 

「長寿命化施設に活用」

少子高齢化と人口減少により、地方自治体の施設はさらに縮小と統廃合が進められると同時に、長期的に利用する指向が高まることから、これから建設する施設には、ランニングコストの削減だけでなく、設備の長寿命性が求められます。再生可能エネルギー設備の中で最も広く普及している太陽光発電の耐用年数は20年と言われていますが、地中熱利用の場合はシステムの主要部分を構成する地中熱交換器が高密度ポリエチレン製であり、耐用年数は50年以上と長期にわたる利用が可能です。このように地中熱交換器をはじめ地中埋設部分が長寿命であるため、ライフサイクルでは有利となります。
図書館やコミュニティ施設などの複合施設、集約型施設は特に長期的に使われ、多くの住民が利用されるため地中熱利用に適しています。また、既存施設の設備改修や更新需要にも対応可能です。

 

「地域産業の活性化」

地中熱ヒートポンプシステムは、地中熱交換井の掘削、配管、ヒートポンプ機器、制御など幅広い技術が必要なため、様々な業種が事業に携わることとなります。再生可能エネルギー利用設備の中では、地中熱利用設備の地域産業への依存率は小水力に次いで高く、地域産業の振興に役立ちます。よって、その地域に存在する井戸掘削会社、設備会社、地場ゼネコンや地場工務店等が参入する機会も増えることとなり、地域の活性化にもつながります。

 

6.まとめ ―地中熱利用の更なる普及促進に向けて-

地中熱は、このように公共施設への導入効果の高い再生可能エネルギーです。温室効果ガス排出を減らしながら省エネを実現し、かつ地域が持続的に成長できる政策を持たれている自治体の皆様には、是非継続的に地中熱の導入を検討していただきたいと考えております。パリ協定において世界と約束した、2030年までに2013年度比で26%の温室効果ガス削減を果たすためにも、各自治体におかれましては、具体的方策として、公共施設の新築・改築時において、再生可能な熱エネルギーである地中熱の導入を検討くださいますようお願い申し上げます。

地中熱利用促進協会では、自治体の皆様とともに、これからも地中熱の普及促進を進めてまいります。地中熱の利用の仕方などご不明な点がありましたら、協会事務局あるいはそれぞれの地域の会員にご相談ください。

 

参考文献
■キロワットアワー・イズ・マネー〔いしずえ新書〕著/村上敦(ドイツ在住環境ジャーナリスト)
■積算資料公表価格版2017年4月号 特集②地中熱利用システム (一社)経済調査会
・公共建築物における地中熱の利用について……国土交通省官庁営繕部設備・環境課課長補佐 政近圭介
・公共施設での地中熱利用……NPO法人地中熱利用促進協会 理事長 笹田政克
・公共施設への地中熱の導入事例分析……NPO法人地中熱利用促進協会 副理事長 森山和馬

地中熱普及拡大に向けた政策提言 (PDFファイル 367KB)