東京都知事 舛添要一殿
東京オリンピック・パラリンピック
施設への地中熱導入の提言
高度成長期の1964年に行われた東京オリンピックから50年が経ち、成熟期に開催される2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、これからの東京と日本のあり方を示す重要な祭典です。オリンピック・レガシーを理解し、優れた大会にしなければなりません。特定非営利活動法人地中熱利用促進協会では、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会が国際公約として掲げた環境ガイドラインの第1の柱であるカーボンニュートラルの大会実現を目指し、この国際公約実現のために大きく貢献できる再生可能エネルギー地中熱の利用について、経済的かつ効果的な導入を提言いたします。
平成26年7月
特定非営利活動法人 地中熱利用促進協会
理事長 笹田政克
真夏の大会
1964 年の東京オリンピックは、秋晴れの10 月10 日に開会式が行われました。2020 年のオリンピック・パラリンピックは、7 月24 日から8 月9 日までと真夏の東京で開催されることが決まっています。気象庁が昨年3月に公表した「地球温暖化予測情報」(2016~35 年を予測)では、オリンピックが開催される頃の東京の夏は、平均気温が現在より1℃上昇、最高気温30℃以上の真夏日が5日以上増加すると予測しています。地球温暖化が進む中、2020 年の東京オリンピック・パラリンピックはかなりの確率で酷暑の中での開催になりそうです。
選手やスタッフそれに観客の皆様の健康を考えた時、競技施設や宿泊施設に冷房が不可欠であることは言うまでもありませんが、一方、わが国では東日本大震災以降、夏の電力需給がきわめて厳しい状況にあり、たとえオリンピック・パラリンピックであろうとも、冷房で高い電力ピークが生じるようなことは避けなければなりません。
地中の冷熱
このための対応策はすでに検討が始められていると思いますが、無理なくピーク電力を下げて冷房を行う方法に、地中の冷熱を利用する地中熱利用があります。地中は常に年平均気温と同じ温度にあり、夏には冷熱源として利用できます。四季のある日本ならではの再生可能エネルギーの利用法です。冷熱が使える地中熱は、真夏に開催される東京オリンピック・パラリンピックで活用できる最も効果的な再生可能エネルギーです。
10m下の地中の温度は、東京の場合は年平均気温と同じ17℃です。この温度は年間通して一定ですので、35℃を超える酷暑日では、気温との差は20℃近くになります。オリンピックの競技施設や選手村が予定されている東京ベイゾーンには、東京都港湾局の観測井があり地温の観測が行われています。
地中熱利用による効率的な冷房
真夏の東京に存在する地中の冷熱の効率的な使い方は、地中熱ヒートポンプです。冷房時に暑い大気中に排熱する通常のエアコンに比べ、消費電力を3 分1削減できます。省エネですので、エアコンのように真夏に電力のピークをつくりません。電力需給が逼迫した夏に最適の冷房手法といえます。
大きな節電効果のある地中熱の利用は、当然のことですが、CO2 排出量の削減にも大きな効果があります。また、競技施設などからの排熱を大気中に放出しませんので、ヒートアイランド対策にも役に立ちます。これらの効果は環境省が以前から注目しており、地中熱ヒートポンプはヒートアイランド対策技術の一つに位置付けられています。
暖房やプールの水温管理も効率的
真夏の東京での冷熱利用について強調してきましたが、地中が年間通して同じ温度である特性は、冬には暖房が効率的にできることを意味しています。東京での暖房はストーブからエアコンに代ってきていますが、冬のエアコンでは冷たい空気から熱を集めて室内の暖房を行っています。一方、地中熱ヒートポンプは、17℃の地中から熱を取り出しますので、たいへん効率的で省エネになります。
地中熱のもう一つの効率的な利用法に、プールの水温管理があります。年間通して利用する室内プールでは、水温を30℃程度に管理しています。この水温を実現するために数百度の高温のボイラーを使うのが従来の方法ですが、エネルギーのロスが大きいことは明らかです。地中熱ヒートポンプでは、17℃の地中から熱を取り出し、30℃の水温を実現します。ヒートポンプの電力のみで効率的な水温管理ができます。
地中熱利用の経済性と持続性
地中熱利用では地中に熱交換器を設置しますので、その分導入コストがかかりますが、仮設の施設を除き、今回建設されるスポーツ施設は長期にわたって利用されるものですので、ライフサイクルコストを考えれば、ランニングコストが安い地中熱を利用した方が経済的です。今後石油や電力の価格はさらに上昇するものと予想されますので、新しく建設される施設は、再生可能エネルギーの利用を優先すべきでしょう。
地中熱利用設備は十分な耐久性をもっています。地中熱交換器は高密度ポリエチレン製のものですので、その耐用年数は50年以上あります。したがって、長く使うスポーツ施設の冷暖房、プールの水温管理には最適です。
オリンピック・パラリンピック施設への導入提案
わが国では地中熱利用施設として有名なものは、東京スカイツリーですが、数々のスポーツ施設にもすでに地中熱は導入されてきています。近年のオリンピック・パラリンピックでは、2008年の北京大会でメインスタジアムに地中熱ヒートポンプが大規模に導入されています。
東京オリンピック・パラリンピックの室内競技施設、水泳競技施設(室内プール)、選手村への地中熱の導入について、以下に提案いたします。
1.室内競技施設では、床暖房・床冷房と室内の冷暖房に地中熱が利用でき、効率的な温度管理ができます。地中熱利用では、これまで大学や小中高校の体育館、ホールの床暖房・冷暖房の実績があり、空気の吹き出しのない静かな雰囲気でスポーツができる環境を実現できます。秋田市山王中学の体育館への導入例では、運動する生徒のけがが少なくなったという報告があります。省エネですので、災害時の避難場所としても活用していただけます。
2.水泳競技施設(室内プール)の水温管理は、省エネを旨とする地中熱利用が得意とする分野です。ヒートポンプの利用では、熱源側の温度と利用側の温度の差が小さければ小さいほど、高い効率でエネルギー利用ができます。熱源である17℃の地中から30℃の温水をつくる室内プールでの地中熱利用は、きわめて省エネ性が高いと言えます。また、冷房の排熱を温水・給湯に利用する排熱回収システムと併用することにより、さらに熱効率がアップします。渋谷区立本町学園を始めとしていくつかの学校や公共施設のプールで地中熱が利用されています。
3.選手村のエネルギー供給にも活用できます。選手村ではエネルギーの面的利用が検討されており、太陽熱、海水熱や下水熱などが候補にあがっていますが、その中の熱源のひとつに地中熱を導入することの効果は大きいと言えます。再生可能エネルギーの中で、地中熱は夏の冷熱源としては最も優れています。また、もっとも身近にあるポテンシャルの大きな熱源であることも優れた点です。再生可能エネルギーを用いた環境技術で、効率的な冷暖房、給湯のシステムが構築できると期待しています。
おわりに
東京都ではオリンピック・パラリンピック基本計画を今年末までに策定すると聞いております。基本計画では地球温暖化対策等の環境面での検討や省エネ、節電についての検討も行われるものと思います。是非とも、冷房における地中熱利用の優位性を関係者の皆様に理解していただき、2020 年の盛夏に行われる東京オリンピック・パラリンピックで地中熱を活用していただけますよう、よろしくご検討をお願いいたします。
優れた環境技術を東京オリンピック・パラリンピックの施設に導入することは、オリンピック・レガシーの実現に寄与するものです。
東京オリンピック・パラリンピック施設への地中熱導入の提言 (pdf版資料)