新国立競技場の整備計画見直しを受けて、2015年8月19日、下記の提言を首相官邸の意見募集ページに投稿いたしました。
NPO法人地中熱利用促進協会
理事長 笹田政克
新国立競技場が「アスリート第一の考え方の下に、世界の人々に感動を与える場」(8月14日発表の「基本的考え方」)になることは多くの国民の願いであると思います。そして、新しく建設される競技場が地球環境に配慮されたものになることも、国民の願いではないでしょうか。地球環境を十分考慮することは、「基本的考え方」の中にも書かれていますが、地中熱利用促進協会は真夏に開催される大会で役に立つ再生可能エネルギー『地中熱』の利用について提言をいたします。地中熱利用は環境省が昨年公表した「東京大会を契機とした環境配慮の推進」の中でも、「当面の取組」の一つとしても取り上げられています。
今年は8日間連続の猛暑日となりましたが、2020 年の大会は今年の連続猛暑日と重なる期間に予定されています。また、気象庁の「地球温暖化予測情報」では、2020年頃の東京の夏は平均気温が1℃上昇していると予測しています。このように猛暑が想定される時期での大会は避けたいものですが、一方、たとえ日程を変更しても、長期的に見た新国立競技場の猛暑対策は回避できるものではありません。根本的には地球温暖化対策が必要であり、そのために有効な方法の一つが再生可能エネルギーの利用です。真夏の猛暑対策も再生可能エネルギーの利用で実現させたいところです。
真夏の大会では選手や観客などの健康を考えた時に、冷房の工夫が必要であることは言うまでもありません。予想される猛暑の中でも多くのエネルギーを消費せずに冷房を行う方法に地中熱利用があります。夏でも地中はひんやりとしており、東京では10m下の地中の温度は、年平均気温と同じ17℃です。35℃を超える猛暑日では、気温と地温との差は20℃近くになり、この温度差が冷房に活用できます。四季のある日本ならではの再生可能エネルギーの利用法です。
地中熱ヒートポンプの利用では、通常のエアコンと比較して消費電力が3 分1程度削減でき、大きなCO2 排出量削減効果があります。また、猛暑日でも通常のエアコンのように電力消費量の大きなピークをつくりません。電力需給が逼迫した真夏に適した冷房といえます。また、競技場からの排熱を大気中に放出しませんので、都心のヒートアイランド対策にも役に立ちます。
地中熱は夏の冷房ばかりでなく、冬には温熱として暖房に利用できます。冬も東京では地中の温度は17℃ですので、気温の低い日や夜間に必要な暖房が効率的にできます。
地中熱は冷暖房以外にもスポーツ施設特有の熱需要に適用できます。新国立競技場ではグランドに天然芝を育成し、サッカー、ラグビーなどのフィールド競技を行う計画があります。しかし、観客席が屋根に覆われ日照の制約があると、天然芝には地温管理等が必要となるといわれています。広いグランドの温度管理には多くのエネルギーが必要となりますが、グランドのすぐ下には地中熱があります。地中熱の利用により化石燃料を最小限に抑えた天然芝の育成が可能になります。
また、真夏の大会では60℃を超えるトラック舗装材の冷却も必要となるでしょう。特に短距離のスタート地点の冷却はより必要性の高いものと思います。トラックの冷却は舗装材に冷水パイプを埋め込むシステムで実現できますが、その冷熱源にはグランドのすぐ下にある地中熱が最適です。地中熱の利用によりアスリートが良好な競技環境で活躍でき、しかも地球環境に配慮したシステムができます。
地中熱利用では地中に熱交換器を設置しますので、その分導入コストがかかりますが、この度建設される新国立競技場は長期にわたって利用されるものですので、ライフサイクルコストで考えれば、ランニングコストが安い地中熱を利用した方が経済的になります。また、運転経費が安く済むことは維持管理上の大きなメリットです。地中熱利用設備は十分な耐久性をもっており、地中熱交換器の耐用年数は50年以上あります。したがって、長く使うスポーツ施設の設備には最適です。
地中熱は、これまでに羽田空港の国際線ターミナルビルや東京スカイツリーなどの施設に、又地方でも公共施設、農業施設、介護施設等で利用されており、年々認知度が向上してきています。近年のオリンピック・パラリンピックでは、2008年北京大会でメインスタジアムに地中熱ヒートポンプが大規模に導入されています。
地球温暖化が進む中、猛暑対策も含めて、大会運営に地中熱などの再生可能エネルギーが活用されることを強く望みます。再生可能エネルギーの利用は、東京招致の際の国際公約の一つであることも想い起していただきたいと思います。